クラウドが引き出す日本企業の事業創造力:世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/2 ページ)
世界最高水準である日本企業の新事業の創造力を引き出すのは、たぐいまれなる情報通信技術を基にしたクラウドコンピューティングの仕組みだ。クラウドは、国内企業の海外展開やビジネスを成功に導く大きな力となる。
クラウドで世界に勝てる分野
クラウドコンピューティングは、データセンターやサーバ施設などを仮想的に共用するハードウェア(インフラストラクチャ)、これをベースにしたミドルウェア(プラットフォーム)、ソフトウェアをシステム連携し、高い自由度で組み合わせて使うアプリケーション――というように、特色の異なる層が存在する。
ハードウェアやインフラの部分では、大筋では海外企業と勝負が付いているように思われる。日本企業がこの分野で国際的にトップを争うような位置に到達するのは簡単ではない。
世界に誇れるのは、日本国内に張り巡らされた超高速通信網と無線網である。この分野には、日本企業が国際競争力を確立するためのアイデアが隠れているかもしれない。だが、土地や電力の価格が高い日本では、データセンターを有利に運用したり、CPU/OS技術で勝負したりするのは、当分難しい。ミドルウェアおよびアプリケーションの分野はこれから開花する要素が多く、日本企業の努力の見せ所だ。
ぜいたくな消費者をうならせた日本の情報通信技術
新しいビジネスやサービスを創造する才能に恵まれた一般の日本製造業やサービス業にとって、クラウドコンピューティングは、十分に活用すべき道具である。
日本企業の財産は、顧客サービスを求めることにぜいたくで、わがままで、気まぐれな日本の消費者である。この消費者の要求を実現することに照準を合わせてサービス革新を遂げ、ビジネス革新の成果を上げたのが、花王やセコム、セブン-イレブン、トステム、NTTドコモ、JR東日本などの先達である。
日本企業は、消費者たちの勝手気ままな言い分に耳を傾けて、その中から本質的な問題解決を実現する機器や製品、サービスモデル、ビジネスモデルを構築していく。その際に情報通信技術(ICT)は、消費者の声を集め、マーケティングを機動的に実施し、国際事業の展開を支援する役割を果たす。
情報通信技術は、世界の主要地域のどこでも自由に使える高機能な環境を、低コストで提供してくれる。これがクラウドコンピューティングなのである。クラウドは、革新的な製品、サービス、ビジネスを成功に導くために、大きな力を貸してくれる。日本企業の海外展開も容易になる。
クラウドコンピューティングは、日本の消費者やユーザーに耳を傾け、新しい事業を創造することに貢献してくれるのだ。
著者プロフィール 中島洋(なかじま ひろし)
日本の経済ジャーナリスト。MM総研 代表取締役所長。全国ソフトウェア協同組合連合会 会長、首都圏ソフトウェア協同組合 代表理事も務める。IT業界に関連した講演・執筆活動を展開。著書は『クラウドコンピューティングバイブル』ほか多数。
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