クラウドで返り咲く日本企業のものづくり能力:世界で勝つ 強い日本企業の作り方(2/2 ページ)
クラウドコンピューティングによって、日本が誇るものづくりの力を音響や映像コンテンツに反映できる。これらのコンテンツを掲載したネット通販は、日本企業が未開拓だった海外市場を掘り起こす可能性を秘めている。
品質の良さが日本の強み
日本企業の強みは、商品の品質の良さを追求することである。家電製品や自動車などの工業製品ばかりでなく、農作物も同様だ。リンゴやナシ、米、水産物など、手を掛けた日本の商品は、高い値段で新興国の富裕層に浸透しつつある。
人口の多い中国やインドでは、富裕層の厚さが違う。それだけ大きな市場があるということだ。ネット通販のサイトでは、商品の品質の良さをきちんと伝えられるかが鍵を握り、品質を伝える魅力的なサイトデザインが勝負を分ける。サイトに載る音響・映像情報は静止画にも増して、顧客を引き寄せ、引きとめ、囲い込むための魅力的なプロモーションコンテンツである。
音響、映像コンテンツのような大容量のファイルを低コストで作成、蓄積し、配信できるインフラこそが、クラウドコンピューティングが提供する環境である。そのふんだんな能力によって、魅力的な音響・映像の利用が可能にする。
劇場用の資金を投入したハリウッド映画のような映像は、日本の現在の力では競争しにくい分野だ。しかし、ストーリーを簡略化したアニメーションや数十秒でメッセージを届ける音響、映像コンテンツにおいて、魅力的な作品を作る能力は十分ある。その力は、江戸時代の版画や古くは絵巻物時代の作品に秘められている。クラウドコンピューティング環境をインフラにしたマルチメディアの時代には、日本のこうした能力が生きてくる。
日本人が国際市場に打って出るときの弱点は外国語だが、ネット上の音楽や映像そのものは言語に依存しない。コンテンツを事前に多言語化して、準備しておくことも可能だ。魅力的な音響、映像コンテンツを前面に押し出したネットワーク通販のビジネスモデルは、十分に国際競争力を持つ。
ネット通販は多くの国境を越えて、これまで日本の製品が到達できなかった市場を開拓してくれる。輸送手法の改善によって配送コストが低下するにしても、輸送コストは弱点だ。だが、高い品質とブランドイメージを確固たるものにできる魅力的な通販サイトによって、コストの壁は乗り越えられるはずだ。日本が誇る高い品質のものづくり能力は、そのメッセージを届けるクラウドコンピューティング環境の整備によって、さらに開花するだろう。
音楽コンテンツもこの流れに乗る。レコードをこの世から放逐したCDが、ネット配信によって今度は絶滅への道を歩み始めた。同じことが雑誌・書籍で起こるだろう。町の書店をジワリと追いつめて、ネット書店で注文し、宅配便で受け取る、というスタイルが定着しつつある。電子書籍端末が普及すれば、紙媒体の雑誌・書籍そのものが消えてしまうかもしれない。その雑誌・書籍の次には新聞やテレビ放送である。
クラウドコンピューティングの台頭により、日本企業はインターネットを軸にサービスモデルを転換せざるを得ないことがはっきりしてくるだろう。
著者プロフィール 中島洋(なかじま ひろし)
日本の経済ジャーナリスト。MM総研 代表取締役所長。全国ソフトウェア協同組合連合会 会長、首都圏ソフトウェア協同組合 代表理事も務める。IT業界に関連した講演・執筆活動を展開。著書は『クラウドコンピューティングバイブル』ほか多数。
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