あなたの知らない“ハイサワー”の世界――博水社社長・田中秀子さん(後編):嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(2/7 ページ)
“ハイサワー”の博水社は、創業時からレモンの品質にこだわり味を守る一方で、ノンアルコールビールなど時代に合わせた新商品も積極的に展開している。3代目社長・田中秀子さんが考える、同族企業の経営において守るべき点、変えるべき点とは?
もう1つ、清涼飲料水一筋で他業種へ手を出していない、という点についてもこだわりが感じられる。多角化の誘惑も数多くあったことと思うが。
「専門外のことには手を出さないというのも代々受け継がれています。バブル期には不動産業進出などのお誘いもありましたが、手を出しませんでした。ハイサワー誕生後の、博水社の“らしさ”とは、“お酒を一番引き立てる味”といういうことにあります。ですから、その点は絶対に外さないようにしていますし、それ以外のことには手を出しません」
現場の真実を重視し、最後に頼るのは“ベロメーター”
どんなに時代が変化したとしても決して変えてはいけないことを貫徹するためには、同時に、時代の変化に即応して“非連続・現状否定”型で変えてゆく部分がないといけない。
「ハイサワー商品を新たに出す際の“原点”は、ご近所の居酒屋さんでのテストマーケティングにあります。そのこと自体も、“不変”の対象なのですが、しかし、そのテストマーケティングの現場から上がってくる声というのは、時代とともに変化してゆきます。私たちは、そうやって変わりゆく“現場の真実”に真摯に向き合い、それをどんどん吸収して、商品の在り方、経営の在り方を変えていかなければいけないと考えています」
一言で飲食店と言っても、脂肪分の多い焼き鳥をたらふく食べながらお酒を飲む居酒屋と、若干の乾き物だけ頼んで、あとはひたすら飲むスナックとでは上がってくる意見も異なるだろう。現場の声をくみ上げつつも、最終的にどこに合わせるかが重要になるのではないか。
「“現場の真実”を踏まえつつ、新商品の最終的な味の決定は、“ベロ(舌)メーター”で決めるんです」と言って田中さんは笑う。最後に商品決定の責任を取るのは、酸度や糖度などの数字よりも自らの舌であるとおっしゃるあたりに、3代目社長としての自信と覚悟が覗くようだ。
「机上の精緻なデータで決定するという考え方もあるでしょうが、さきほど申し上げたように、博水社の“らしさ”は、「お酒を一番引き立てる味」の商品を常に提供してゆくことにあります。そういう意味で、居酒屋さんたちの現場で愛され、かつ、自分たちにとって“一番自信のある味は何か”ということが、最終的な決定要因になるのです」
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