プリウスは本当に“不具合”なのか――クルマのソフトウェア化を考える:神尾寿の時事日想・特別編(2/4 ページ)
時代の寵児から一転、相次ぐトヨタ問題の槍玉に上がってしまった「プリウス」。しかし本当にブレーキの“不具合”だったのか。このリコール問題は、クルマのソフトウェア時代を考える上で大きな課題をはらんでいる。
プリウス、“不具合”の内容とは
トヨタが今回国土交通省に届け出たリコールの改善個所説明図。「ブレーキをかけている途中に凍結や凹凸路面などを通過してABSが作動すると顕著な空走感や制御遅れを生じる(略)一定の踏力でブレーキペダルを保持し続けた場合(略)制動停止距離が伸びる恐れがあります」との説明が付いている(クリックすると全体を表示)
ここで改めて、今回、問題視された「プリウスのリコール」とはどのような内容なのかを振り返りたい。
今回、プリウスの“不具合”とされたのは、ABS(アンチロックブレーキシステム※)の制御システムの部分だ。現在のクルマでは、ほぼ標準的に装着されているものだが、プリウスなどトヨタの最新型THS※※と組み合わせると、特定の使用条件下において「ブレーキが効いていない」かのような空走感や制動の遅れを感じるというもの。なお、この現象の発生中もブレーキシステムそのものは稼働しており、ドライバーがより強くブレーキを作動させるように操作すれば、問題なく制止する。この不具合は84件発生しているが、この現象に起因する事故は起きていない。
プリウスの3つのブレーキ
なぜ、このような現象が発生したのか。
ハイブリッドカーやEV(電気自動車)のブレーキシステムでは、モーターを発電機として使い減速時の摩擦抵抗で減速と発電をする「回生ブレーキ」と、一般的なクルマと同じくブレーキパッドの摩擦力でクルマを止める「油圧ブレーキ」の2種類のブレーキを組み合わせて使用している。
さらにトヨタのTHSでは、回生ブレーキの効率を高めるために、電子制御技術によって回生ブレーキと油圧ブレーキを総合的に管理。ブレーキペダルを踏んだ力を機械的に直接ブレーキに伝えるのではなく、ペダルを踏み込んだ圧力をセンサーで検知し、コンピューターでブレーキシステムを制御する「ブレーキ・バイ・ワイヤー」システムを採用している※。ドライバーがブレーキを踏むと、コンピューターが回生ブレーキと油圧ブレーキの作業量を振り分け、さらに油圧ブレーキでは電動ポンプを制御してブレーキパッドの稼働に必要な油圧をコントロールする。このように、かなり複雑で高度な電子制御をトヨタのTHSは行っているのだ。
そして、今回の現象の発生原因に関わってくるのが、「もう1つの油圧ブレーキ」の存在である。前述のようにプリウスはブレーキ・バイ・ワイヤーで電子制御された「回生ブレーキ」と「電動式油圧ブレーキ」が普段は使われているが、安全上のバックアップとして「機械式油圧ブレーキ」も搭載している。これはブレーキペダルを踏み込む力を機械的に増幅し、油圧ポンプを作動させるもので、一般的なクルマで広く採用されているものだ。すなわち、「回生ブレーキ」と「電動式油圧ブレーキ」がメインの2系統であり、予備に「機械式油圧ブレーキ」を持つ3系統のシステムなのだ。
今回の不具合は、この回生ブレーキと油圧ブレーキの作動過程において、「凍結や凹凸路面等を通過してABSが作動すると、顕著な空走感や作動遅れが発生する」というもの。このような現象が発生する背景には、ABSと上記の“3つのブレーキ”による複雑な制御がある。
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