プリウスは本当に“不具合”なのか――クルマのソフトウェア化を考える:神尾寿の時事日想・特別編(4/4 ページ)
時代の寵児から一転、相次ぐトヨタ問題の槍玉に上がってしまった「プリウス」。しかし本当にブレーキの“不具合”だったのか。このリコール問題は、クルマのソフトウェア時代を考える上で大きな課題をはらんでいる。
もちろん、クルマは多くの人の安全を預かるものであり、ソフトウェアによる電子制御が増えているからといって、それを「安全」や「品質」を軽視する口実にしてはならない。だが、その一方で、クルマに求められる環境性能や安全性能が高くなる中で、電子制御の領域が広がり、“クルマのソフトウェア化”が避けられないのも事実だ。誤解を恐れずにいえば、コンピューターとソフトウェアの進化が、クルマをここまで安全で環境性能の高い乗り物へと進化させた。この流れを遮ったり、逆行させることはできないだろう。
また、プリウスをめぐる一連の技術情報をみれば分かるとおり、自動車メーカーはクルマの電子制御化において、二重三重にバックアップされたトラブル対策とフェイルセーフの仕組みを導入している。ソフトウェアの不具合によって、ドライバーを危険な状態に置かないよう、さまざまな対策をしているのだ。
クルマの将来的な進化を見据えれば、ソフトウェアの不具合発生への基本的な安全対策に加えて、トラブルの予兆を未然に検知する仕組みも必要になると筆者は考えている。具体的には、クルマに通信モジュールを搭載し、電子制御システムでエラーが発生した際には、その情報を通信経由で収集して分析するというものだ。自動車メーカーは電子制御システムの品質確保に入念なチェックを行っているが、今回プリウスで起きたように“特定の使用条件下のみで発生するソフトウェア制御の不具合”を、製品の発売前にすべて把握するのは難しい。世界中に広がるモバイル通信インフラを用いて、品質向上や安全性向上につながる情報をクルマ側から収集する。
今回の“プリウス事件”をきっかけに、安全のためにクルマのオンライン化が促進される――そんなシナリオも十分に考えられそうだ。
著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/ 交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。
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