三菱自動車とサムスン:それぞれの標準化と戦略:モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)
2010年3月9日、「『スマートなモノづくり』フォーラム 2010 Spring」が開催された(日本アイ・ビー・エム、ITmedia エグゼクティブ編集部共催)。PLM関連の話題のほか、招待講演では実際のモノづくり企業が登壇、これからの製造業が取るべき戦略の一例を見せてくれた。本稿では、当日のセッションの中から、当フォーラム読者に近しい話題を中心に紹介する。
i-MiEV(アイ・ミーブ)成功の裏側から
当日は、三菱自動車工業 開発本部 EV・パワートレインシステム技術部 担当部長 和田 憲一郎氏が登壇、「進化する電気自動車『i-MiEV』(アイ・ミーブ)」と題した講演を行った。
i-MiEVについては、昨年の発表以来各所で注目されているとおり、あらためて言及するまでもなく、従来の電気自動車の持つ弱点をクリアして、本格的に電気自動車市場を開拓すべく投入されたクルマだ。発表後も車体そのものだけでなく、自動車メーカーが目指すこれからのクルマづくりを示唆するさまざまなニュースが投下されている。講演の前日にも、三菱自動車からPSAプジョー・シトロエン社へのi-MiEV開発供給について、最終合意が発表されたばかりだ。
当日は、i-MiEVのコンセプチュアルな商品作りの裏側と電気自動車が実現する次世代社会インフラ像が語られた。
マーケティングリサーチと横連携による課題解決策
i-MiEV登場以前にも電気自動車は存在していたが、実用化に際しては数々の障壁があった。ごく簡単にいうと、充電時間の長さ、電池性能、電池性能に付随した走行距離上の課題などの理由で実用性ある商品にはなり難いものになっていたのだ。
同社では、こうした課題を克服するため事前のマーケティング時に必要な走行距離を算出、1度の充電であまり条件を付けずに100kmを走ればほとんどの利用者のニーズに対応できるとの結果を基に、まずは100km走ることをターゲットとした。また、充電時間が長く掛かり実用的ではない、というイメージを払しょくするために、スピーディな充電(急速充電)を実現する機構を持つことも重視した。
この結果を受け、3種類の充電方式への対応と、電力会社などを巻き込んだ急速充電システムの開発、電池開発のために複数社共同出資による新会社設立と、着実に課題をクリアするための準備を進めていたのである。
効率的開発のための方策〜車体検討と事前CAE解析による追い込み
自動車の商品開発には膨大な時間が掛かる。安全性基準や品質検証など、市場投入までに通過しなければならない関門が多数存在する。一方で、電気自動車商品開発は競争が激しい分野でもある。
開発リードタイム短縮のために、同社ではベースプラットフォーム検討時に、既存のガソリン車の車体をベースとすることで、一部を簡略化することに成功した。車体機構が完全に同一であれば、衝突安全性に関する検証などの期間を短縮することができる。同社が保有する軽自動車をベースとし、動力系の機構をすべてガソリン車と同じサイズの中に収めることを前提に開発を進めた。
さらに同社では、開発段階でのCAE解析に注力したことで、「実車体を使った検証時には事前のCAE解析時とほとんど変わらない結果を得ることができた」(和田氏)という。
標準化でリーダーシップを取る三菱自動車/取らないサムスン:それぞれの戦略
三菱自動車は、電気自動車および関連技術の標準化活動に積極的にコミットし、世界標準としての採用を目指してリーダーシップを発揮している。 2010年3月15日には、東京電力、トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業、および三菱自動車の5社が幹事会社となり、158企業が参加して「CHAdeMO協議会」を設立した。協議会では急速充電方法の統一とインフラの普及を目指している。後述するように、電気自動車を軸とした新しいインフラシステムでアドバンテージを取ることが狙いだ。
一方で、三菱自動車とは正反対のスタンスから戦略を立てているのがサムスンだ。登壇した元サムスン電子(三星電子) 常務の小黒 正樹氏は「サムスンは標準化規格競争では先頭を切らない」と明言した。
小黒氏は、サムスン電子在籍中、数々のイノベーティブな製品を手掛け、多数のアワードを受賞していることでも知られる。もともとはソニーに籍を置き、映像関連製品などを手掛けていた。もちろん、ソニー時代にも多数のアワードを獲得している。
さて、小黒氏いわく、「サムスンは一切の規格標準化にコミットしない」ことを是としているという。それはなぜか。
次世代DVD競争が激化した際の各陣営が繰り広げた消耗戦がまだ記憶に新しい。エレクトロニクスメーカーとして標準化競争があるならば、決着が付くまで双方の規格をフォローする、という姿勢に徹する。標準化競争にかかわるコストの負担を負うリスクを排除したうえで、双方の陣営に向けて製品を供給していくことで優位を保つ戦略だ。
むろん競争の渦中では勢力図の変遷をフォローしながら迅速に市況に対応する必要があるだろう。ここは推論となるが、サムスン電子を含むサムスングループにおける統制のとれた速度感あるトップダウン経営が実現できれば、十分に対応できるのではないだろうか。
両社の戦略は対極にあるといえるが、開発と標準化競争が過熱する電気自動車業界と普及フェイズにあるエレクトロニクス製品業界との違いによるところも少なくないだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.