危機感:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)
郵貯、簡保の限度額が引き上げられる。すでに巨額のマネーを集めているにもかかわらず、なぜさらに拡大を目指すのか。
日本はどこへ向かうのか
本来なら、国が借金する場合、民間の金融機関に国債を買ってもらうのが筋である。それによって、国家の財政規律も保たれるからだ。国債をあまりに発行しすぎれば、機関投資家は国債の入札条件の見直し、すなわち金利の引き上げを求めることになる。政府としてはそうならないように、格付けを重視し、財政規律を保たねばならない。
しかし郵貯や簡保が巨大な国の財布であり続け、なおかつさらに大きな財布になるならば、こうした財政規律は保たれない。国や地方の借金がGDP(国内総生産)の2倍に達しようとする今、郵貯や簡保の限度額引き上げは財布を大きくしようとする企てに見える。そして問題なのは、やがて金利が上昇したときに、郵貯や簡保は巨額の損失を抱えることになる。運用の8割を占める国債が値下がりするからだ。その損失を誰が埋めるのだろうか。「国営金融機関」であれば、当然、損失の穴埋めは税金で行われるはずだ。そして国民はそれに納得できるのだろうか。
小泉・竹中改革は「市場原理主義」というレッテルを貼られてすっかり葬り去られようとしている。確かに、小泉・竹中改革のすべてがよかったとは思わないが、資源配分の流れを基本的に市場に任せようという発想は決しておかしいとは思わない(市場に任せることによってゆがみが生ずる場合は、それに対応すればいいのであって、市場に任せること自体を否定すべきではないと思う)。
だいたい、かんぽの宿にしても、年金でつくった施設にしても、市場とは関係のない「武家の商法」で考えた商売がどうなるのか。見事なまでの前例がある。
最近、米国のあるサイトで、こんな表現を見つけてどっきりしたことがある。「日本は物事の最適解を見つけようとする国ではない。われわれとは違うゲームプランで動いているのだ」
日本の存在感が、経済でも外交でもどんどん薄れるなかで、日本は違う論理で動く国という位置づけをされたら、ますます存在感が薄れてしまう。そんな危機感を現在の民主党政権は果たしてどこまで持っているのか。それによって日本の将来は大きく変わってくる。
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著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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