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IT業界に構造変化 「第2の繊維産業化」のおそれも戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

前回、5年から10年で国内IT産業の雇用の約3割が消失するという仮説について述べました。今回は、ベンダーの特徴別に、このことの影響と対応の方向性について考えることにします。

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 前回は、大手ITベンダーによるオフショア活用拡大がIT業界の雇用に大きな影響を及ぼし、この5年から10年で国内IT産業の雇用の約3割が消失するという仮説について述べました。今回は、ベンダーの特徴別に、このことの影響と対応の方向性について考えることにします。

大手ベンダー 経営面での能力向上に最大のチャレンジが残る

 オフショア活用の拡大は、富士通、NEC、日立製作所、NTTデータなどの超大手ベンダー、およびそれに続く野村総合研究所、日本ユニシスなどの大手ベンダーにおいては「雇用者数」の上ではそれほど影響を与えないでしょう。

 ただし、仕事内容、能力については、かなりの変化が求められることになります。新しいオペレーションおよびシステムのアーキテクチャの設計、そしてプロジェクトマネジメントについてかなり高度で精緻な実行力が必要となります。また言うまでも無く語学力も不可欠になってきます。

 これらの要求を満たすのは簡単ではありません。多くの大手ベンダーがコンサルティング部隊を立ち上げてみたものの、あまり有効に機能していない点、コンサルティング業界という切り口で見た場合、ほとんどプレゼンスを獲得できていないことが、この難しさを示しているとも言えます。

 とはいえ、大手ベンダーの人材ポテンシャルを見るに、今後適切なステップを踏み、環境を整備すればこれらの能力獲得は、十分に達成できるものです。

 ただし、大手ベンダーが十分に雇用を維持・拡大し続けられるということが前提であるのは言うまでもありません。

 このために最も重要なことは新興国の市場も含めたグローバルでのビジネスをいかに獲得・拡大してくかということになってきます。しかし、経営面では大きな課題がありそうです。

 オフショア活用に限定されないグローバルでのビジネス展開の戦略については、適切なシナリオに基づいた立案が必要となってきます。事業や子会社の清算や売却までを視野に含めた取捨選択の意思決定の精度とスピードについては、まだまだ磨きをかけなければならないでしょう。

 オフショアの活用やグローバル化に伴い、グループ子会社の位置づけを明確に定義することが不可欠となってきます。場合によっては売却や清算という意思決定を迫られることも考えられます。ここで「やっかいな決断」を「次世代」に先送りするような経営であってはならないと考えられます。

 また、グローバル経営の遂行については、日本の大手ベンダーは(製造業などと比べて)明らかに経験が不足していることは事実です。

中小ベンダー 業界からの撤退や業態転換に直面

 オフショア活用の拡大による影響を最も受けるのは、下請けに位置する中小ベンダーです。結論から言えば、業界再編と業態転換が必要となります。

 大手ベンダーがオフショアの活用を進めれば、下請けに位置している国内の中小ベンダーは工数単価の価格競争に巻き込まれていきます。中小ベンダーが抱えるSEやプログラマー多くは、差別化しにくい開発やテスト工程などを担当しているため、多くの中小ベンダーが生き残りを賭けて価格を下げていくことになります。

 この状態になってしまうと中小ベンダーは、必要な新技術獲得や独自パッケージ開発への投資がますます難しくなっていきます。また、国際競争力を維持するために最低限必要な人材教育、作業プロセスの標準化やモジュールの再利用などの生産性向上の取り組みすら放棄せざるを得なくなります。中小ベンダーは、技術者を低価格で派遣するだけで、ますます弱体化していくことになります。

 日本の繊維産業は、1965年に99.8万人が働いていましたが、1995年には19.3万人に減少しました。注:1)その要因の一つは、零細企業の多い繊維産業の産業構造により、国際競争に太刀打ちできる生産性向上を実現できなかったため、としています。繊維産業の企業は、新規設備投資、製品開発のための諸資源確保、市場との接点拡大・活用に必要な企業規模がなく、国際競争力を失ってしまいました。

 現在日本のIT産業には、約13,000事務所(本社及び単独事業所)が存在していますが、売上高が100億円を超える企業数は200弱にすぎません。それ以外のベンダーでみれば従業員数は1社(又は1単独事業所)当たり平均40人強です。このような小企業/零細企業では、競争力を確保するための一定規模のシステムやサービスの企画・開発、及び効率的な開発ノウハウの蓄積・共有は難しいと言わざるを得ません。

 中小ベンダーの多くは業界再編あるいは事業清算に直面することとなりますが、発想を変えて全く別の業態へと転換を図ることにより、ITの技術や資産が強力な差別化要素となり成功を収める企業も誕生すると考えられます。

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