「しばらく様子見」は失敗の元――買収後の事業統合におけるゴールデンルール:戦略コンサルタントの視点(2/3 ページ)
日本のIT業界では、買収直後にすぐには組織統合に踏み込まないケースが数多く見受けられました。しかし、「現状維持で大きな摩擦や混乱を避けよう」といった考えが逆効果になることが非常に多いのです。
ルール2 : 統合1カ月以内のクイックウィン実現に妥協しない
将来の絵姿が示された直後は、ほとんどの従業員が組織統廃合をはじめとしたPMIの取り組みの必要性や、成長することによる将来への期待を感じています。
しかし、いったん統合の作業が始まれば「どのサービスを残すか」「顧客の担当営業はどちらが中心となるのか」「給与レベルの格差は埋まらないのか」「どちらの開発方法論に統一するか」「評価・キャリア制度は変わるのか」などの具体的な問題が出始め、すぐにモチベーションを減退させ、PMIの進行を遅らせます。
このモチベーションの昂揚には、クイックウィン(直ぐに出る成果)が必要です。
PMIの多くの取り組みでは、具体的な効果が出るまでに時間がかかります。例えば、IT業界でよく見受けられる顧客基盤の拡大やクロスセルで言えば、受託開発の成約に1年程度かかることもあります。このような先々の効果発現のために、買収直後から実現すべき事項がクイックウィンです。
クロスセルの例では、1日目で顧客別案件リストを共有し、1週間で両組織のアカウント担当の再整理した上で、1カ月以内に買収先の全顧客に訪問し、統合組織を説明した上で案件を深掘りする、などを着実に成し遂げていく必要があります。
コスト削減でも「重複したシステム資産の除却」や「重複業務の統一化」が実現するのは先であっても、その候補の資産や業務のリストは買収後1週間以内で整理できます。
PMIでは、これらのクイックウィンの1つ1つが確実に実現されるよう管理する必要があります。またその成果を組織全体で確認することで、従業員のモチベーションの向上につなげます。
しかし、実際にPMIを進めれば、現場から「人がいない」「相手が協力的でない」「役割分担が分からない」など、できない言い訳が山のように出てきます。ここで経営陣が妥協しては、PMIは進みません。
経営陣がクイックウィンの実現に対して徹底的なこだわりを見せてはじめて、現場も「絶対にやらなければいけない」と本気になります。
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