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日航、IBMの提携解消に思う戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

「日航、IBMとの提携を解消 システム開発事業競争入札でコスト削減」という動きから、今回はアウトソーシングについて考えてみることにします。

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 6月22日の日本経済新聞の一面に「日航、IBMとの提携を解消 システム開発事業競争入札でコスト削減」という記事が出ました。

 日本航空と日本IBMは2000年に提携。日航の情報システム子会社であるJALインフォテック(以下JIT)に日本IBMが出資し(日本IBM51%、日航41%、その他が8%との出資比率)、日航は2001年の7月からJITへシステム開発や運用をアウトソーシングしています。

 記事によれば「両社で進めてきた独自仕様のシステム開発は割高」であり「競争入札による外部委託の拡大でコストを引き下げる」ことを目指し、「11年の7月までに日航は日本IBMが保有するJIT株を買収」し、「日航はJITの企画機能を取り込み、今後もシステム開発の方向性を主体的に決める体制にする」とのことです。

 今回はこの動きから、アウトソーシングなどについて考えてみることにします。

2000年ごろを振り返って……

 日航と日本IBMのアウトソーシング契約は2001年の7月に締結されましたが、当時は10年間で800億円の契約として話題になりました。今回の提携解消は契約の延長はしないという解釈が適当なところでしょう。

 2000年ころから日航と日本IBMが採った形態のアウトソーシングは盛んに締結されました。すなわちシステムベンダーと企業の情報システム子会社が、ジョイントベンチャーを形成して親会社のシステムのアウトソーシングを請け負うという形です。

 これは財務的なメリット以外にも、システム部門が(JVの)システムベンダーの社員になることによる技術習得の機会増加、キャリア形成の広がりや、大手ベンダーのネットワークを活用することによる外販の機会拡大などがシステムベンダー側からは喧伝されていました。

 一方で、当時からリスクも指摘されていました。最大のものは、システムベンダーにロックインされてしまうことでした。つまり企業の基幹システムが握られてしまい、さらには人も握られてしまうということです。このことにより、そのベンダーへ発注せざるを得なくなり、新システムの開発や運用コストが高止まりしてしまうということです。

 これは今回の提携解消の理由と同じです。

リスクは認識されていたのだろうが……

 日航側としてもこれらのリスクは認識した上で「リスク回避」の対策は打っていたと思われます。当時の報道からは、次のような対策が挙げられています。

  • 契約にサービス品質の“保証条項”を多数盛り込んだ。例えば「馴れ合い」を防ぐべく、契約を期間途中に見直す権利を日航側が確保した
  • 案件次第では日本IBM以外のシステムベンダーに開発を委託する選択肢も認めさせた
  • 意見交換の場を定期的に設定。経営陣は6カ月に1度、部長クラスは3カ月に1度、現場は毎月、サービス内容について協議
  • システム開発の生産性、開発スピードについての目標値を決め日本IBMに誓約させた
  • この結果「契約書類はA4判で10cm以上の厚さがある」とのこと

 これらの保証条項の中味の戦略性や網羅性などのレベルの高低は不明ですから、一概に良し悪しは言えませんが、対策の項目で見る限り、相応の工夫はされていたと考えていいでしょう。特に注目すべき点は、日本IBM以外への発注権を明文化しているということです。

 それなのになぜ今回のようなことになったのでしょうか?

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