「おひとりさま」の本当の意味――きき酒師・エッセイスト 葉石かおりさん:嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(2/7 ページ)
抜群の嗅覚と日本酒のセンスを持つきき酒師であり、日本女性のライフスタイルや京都案内をテーマに執筆するエッセイストでもある葉石かおりさん。「おひとりさま」のエキスパートでもある彼女の素顔とは……。
試験の内容は、やはり、目隠しをして、各種日本酒のテイスティングをし、銘柄を当てたりするのだろうか?
「いえ、そんなことはしないですよ!」と笑いながら、葉石さんはこう説明してくれた。「第1に、酒類全般についての基礎知識を問うペーパーテストがあります。第2に、ある状況を設定して、その状況下における日本酒のふさわしい提供方法や料理との組み合わせについて企画書を書きます。第3にテイスティングです。複数の日本酒についてそれぞれの最大の個性は何かを適切に表現し、その個性を生かすにはどうしたらよいかなどを答えることになります。そして第4に口頭試問です。好感度であったり、ボトルを扱う技術であったり、きき酒師として人前に出てやってゆけるかどうかが見られます」
きき酒師になるためには、やはり酒豪でないといけないのだろうか。「まったくそんなことはありません(笑)。体質的に受け付けない下戸ではさすがにキツイでしょうが、お酒が強くなくても、好きなら良いと思います」
資格を取得して独立した場合、どんな仕事があり得るのだろうか?「やはり一番多いのは、酒販店やホテル(料飲部門)に対するコンサルティングでしょうね。あとは、国税局からお声がかかることもあります。国税局では全国の酒販店に対して、日本酒の保管状況に問題はないか、お酒が劣化していないかをチェックするために抜き打ちの検査を実施しているんですね。その時に、酒造関係者や私たちのようなきき酒師がテイスティングをします。”麻薬犬のような仕事”と呼ぶ人もいます」
葉石さんご自身の現在の主要な仕事内容についても尋ねてみた。「書く仕事(連載、単行本執筆)と話す仕事(テレビ出演、講演、セミナー、コンサルティングなど)が半々。あとは日本酒関連グッズ(ぐい飲みなど)のプロデュースや、相方(後述)が京都で始めた着物のネット販売(参照リンク)のサポートなどですね」。
ビジネスパーソンの間に広がる日本酒ブーム、その背景にあるもの
近年、東京など都市部のビジネスパーソンを中心にして日本酒が静かなブームを呼んでいる。一般の会社勤めの方々の中にも日本酒について非常に詳しい人々が多く現われ、週末になると地方の蔵元を訪ね、親しく交流する姿を頻繁に見かけるようになった。
中には、きき酒師や評論家を同乗させた専用列車を仕立て、50人や100人といった単位で地方の蔵元めぐりをするケースもある。こうした現象の背景には、果たして何があるのだろうか?
「それは、ビジネスパーソンなど生活者側の"本物志向"と、蔵元側の経営努力です。前者の生活者の"本物志向"については、ポイントが2つあると思います。
1つは、人々が”ハレ”と”ケ”を使い分けるようになっていること。長引く不況もあって、日常生活でお酒を飲む機会が減っていますが、その代わり飲むときは”本物をちょこっと……”という人が増えています。もう1つは、お酒のアテの近年の潮流が、より本物のお酒へのニーズを高めていること。先進諸国に共通する傾向ですが、日本の"食"は、より吟味された食材とその持ち味、特性を生かす、よりシンプルな料理へとシフトしています。日本酒のアテも同様です。その結果、お酒の味がよりいっそう引き立つようになるとともに、より本格的な日本酒への欲求を高めたということだと思います。
一方、後者の蔵元側の経営努力に関してですが、やはり不況の影響は深刻で、ここ4〜5年の間に全国で2300軒あった蔵元が1400軒にまで減っています。そのため、代替わりを機に、若い蔵元、それも、大学時代を東京で過ごし、東京のライフスタイルを知っている人たちを中心にして、経営革新を図るケースが増えているんです」
具体的には、どのような取り組みをしているのだろうか?「若い蔵元が都内で、時には海外で、今一番先鋭な飲食店を視察して飲食の動向をリサーチしています。それを踏まえて各蔵元が、純米酒を中心に現代のニーズに即した個性的なお酒を新しく生み出しているんです。ターゲットは東京など大都市圏の生活者です」
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