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アジア新興国バングラデシュから見た世界と日本女流コンサルタント、アジアを歩く(5/6 ページ)

本稿では、バングラデシュの衣料品サプライヤー企業の視察から見えた現地の状況を伝えるとともに、Next11(N11)であるバングラデシュが世界をどのようにとらえ、日本をどのように見ているのかを伝える。

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バングラデシュ進出日本企業から見た日本

 では、バングラデシュに進出している日本企業は日本をどのようにとらえているのか。わたしは、伊藤忠商事ダッカ事務所所長の久林融氏に現地で話を伺った。伊藤忠商事は、約20年前からダッカ周辺の協力工場で欧州向けのシャツを生産し、品質管理や物流ノウハウを蓄積してきた。2007年8月には、バングラデシュにニット工場を設立している。3年前まで日本向けの生産は少量だったが、徐々に廉価品の生産を増やし、今年10月には、中国の人件費高騰に対応し、バングラデシュでの日本向け衣料品生産を来年に倍増させる方針を明らかにした。


久林氏との対談

 久林氏のお話によると、やはり日本市場向けとヨーロッパ市場向けでは、いくつかの点で大きく異なるそうだ。伊藤忠商事では、日本市場向け製品の製造のために、17の取引工場に対して、17人のQC(Quality Control)担当者を置き、徹底した品質管理を行っているという。長年積み上げてきたノウハウによる品質管理こそが強みである一方で、ヨーロッパ市場製品としては、少し過剰な品質管理になっていると、久林氏は語っている。また、日本市場と欧米市場が求める品質の違いもある。日本の消費者は、表・裏・裾といったすべてに等しく高い品質を求めるが、欧米では表・裏・裾という順番で品質の優先度合いがあるそうだ。

 加えて、日本のバイヤー企業とヨーロッパのバイヤー企業が求めることも異なる。日本のバイヤー企業は、品質とコストを重視する。正確を期して言うならば、もともと日本のバイヤー企業は、スピードも品質もコストも求める。中国に対しては、そのすべてを求めてきた。しかし、バングラデシュが地理的に遠方であること、小ロット・短サイクルなどといった特殊なオーダーへの対応を求めることが不可欠であることから、スピードを犠牲にせざるを得ず、その代わりに日本の市場に合った高い品質を低いコストで求めている、というのが実態である。

 一方、ヨーロッパのバイヤー企業は、日本ほど高い品質を求めない代わりに、スピードとコストを重視するそうだ。大ロットの大量発注であることもこれを示す例であるが、工場からの発送形態にもその傾向が見られる。ヨーロッパのバイヤー企業は、商品陳列までのリードタイムの短縮と、ヨーロッパ店舗での商品陳列のコスト削減という観点から、生産拠点からハンガーに掛けたままの状態でコンテナ輸送することを望む。輸送された製品はバーコード読み取り後にそのまま店舗に並べられるのである。しかし、日本のバイヤー企業の多くは、製品を畳んで出荷することが望ましいと考えるのである。

 伊藤忠商事では、長年の経営努力によって、ヨーロッパ市場と日本市場の違いを吸収できる運営管理を培ってきたわけだが、根本的に抱き続けているジレンマは、Annesha Style社などのバングラデシュ企業が抱くジレンマと同じであることが分かる。これらは、これからバングラデシュに進出しようとする日本企業に大きな示唆を与えてくれるものである。

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