その構造的な原因:リレーションシップ・クライシスという名の危機(1/4 ページ)
第2回は、リレーションシップ・クライシスが起こる構造的な原因についてお話したいと思います。なぜこの現象がある特定の組織だけではなく、社会的な規模で起きているのかをまず考えていきましょう。
リレーションシップ・クライシスの引き金
前回、「はじめは単なる意見の食い違いだったものが、状況が深刻になるにつれて、根深い感情的な対立にまで発展し、その結果、組織が崩壊状態になる」という社会的な現象、リレーションシップ・クライシスをご紹介しました。
第2回は、リレーションシップ・クライシスが起こる構造的な原因についてお話したいと思います。早速ですが、なぜ現在、リレーションシップ・クライシスという現象がある特定の組織だけではなく、社会的な規模で起っているのかを考えていきましょう。
その答えは、「複雑な問題」にあります。
組織が直面する問題が、もはや一人の努力は、おろか特定の部署など一部分では解決できないほど複雑なものになってきているのです。
最たるものは、「少子高齢化」「IT革命による第3の波」「グローバリゼーション」といった時代の流れによって生まれた「付加価値の無価値化」です。
1990年代後半ごろは「消費者のニーズが多様化し、答えを見出しづらい時代となった」といわれていました。しかし、現在は「答えとして見出されたあらゆる付加価値は、急速に無価値化する時代」になってきています。
「少子高齢化」は、国内マーケット全体の規模を縮小し、「IT革命」は数々の参入障壁を破壊し、あらゆるコンテンツの価値を限りなくゼロに近づけています。そして、グローバリゼーションは、「安くてよりよいもの」をいつでも、どこからでも手に入れることができることを可能にしてしまいました。
つまり、わたしたち日本企業は多様化するニーズに必死に追いつこうと、死に物狂いで答えを出したとしても、大きく稼げるだけの国内マーケットを持たない上に、その付加価値は即座に真似されたり、代替品に置き換えられたりすることによって、無価値化に追いやられてしまうという環境の中にいるのです。
1つ例を挙げてみましょう。
例えばカーナビゲーションシステムは、自動車が存続する限り利益を生み出し続けるドル箱のように捉えられており、各社はしのぎを削って高機能化を図っていました。しかし、ここ数年で携帯電話のナビゲーションサービスにあっさりとマーケットを取られてしまったのです。カーナビゲーションマーケット市場は即座に頭打ちになってしまいました。
このような全く予期していなかった「付加価値の無価値化」に絶え間なく直面し続けることが引き金となって、組織は迷走を始め、リレーションシップ・クライシスに陥っていくのです。
リレーションシップ・クライシス・スパイラル
「複雑な問題」、特に、「付加価値の無価値化」が引き金となって始まるのがリレーションシップ・クライシスです。
ここからは、どのように悪化していくのか、そのメカニズムをより詳しく説明します。下記の図は、リレーションシップ・クライシスが始まり、深まっていく負のスパイラルを表しています。
最初は、市場が縮小して既存のビジネスが先細っていくなどの一人の力、一部署の力では解決できない複雑な問題が引き金となってリレーションシップ・クライシスは始まる。(複雑な問題)
状況を打開するために会議などの場がもたれるが、それぞれの主張が異なり、議論は全くかみ合わない。(すり合わない主張)
結論が出ないので、危機感を持った意識の高い人は自分の職務の範囲内で努力をするが、状況は改善せず、それどころかますます悪化していく。(状況悪化)
自分でできることはやったが状況は変わらなかったという結果と自分の影響を及ぼせる範囲外にしか原因はないという確信が高まってくるにつれて、原因は特定の主体者(人や部門)だと考え出す。(犯人探し)
原因だとされた対象者は、自己防衛のために周りに対する他責・他者批判の姿勢を強くしていく。また、その影響が周り広がっていく。(他責・他者批判〔T2〕ウイルス)
また、自分が間違っていないことを証明するために第三者の共感を得ようとし、それが無自覚なシンパ集めとなり、組織に派閥が生まれていく。(シンパ集め)
感情的に自分の立場や主張に固執し、議論はよりすり合わなくなっていく。(すり合わない主張)
以上が、リレーションシップ・クライシスが起こり、深まっていくスパイラルです。各プロセスについてもう少し詳細に解説してみます。
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