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いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論――一橋大学の名和教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/4 ページ)

元マッキンゼー&カンパニーディレクターで、現在は一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の名和高司氏が「いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論」とのタイトルで、経営コンサルタントとしての永年の経験を元に日本企業の新たな成長戦略を語った。

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任天堂とアップルの共通点は

 最初に取り上げたのは家庭用ゲーム機だ。

 講演では「かつてのファミコンに対して戦いを挑んだ2つの製品」として、ソニーのPlayStationとマイクロソフトのXboxを取り上げた。

 PlayStationは高性能のチップを搭載した、きわめてコストが高い製品である。しかし、ハイエンドのユーザは飛びつくものの、ボリュームゾーンには入っていけないという欠点がある。一方で、Xboxは安く作られていて大衆受けはするかもしれないが、特徴のないコモディティ製品になっている。

 これに対するスマート×リーンの製品は、任天堂のニンテンドーDSやWiiだという。名和氏は「ソニーとマイクロソフトというハードやソフトの巨人に、もともとは花札やトランプを作っていた会社が、このスマート×リーン戦略で正面から戦いを挑んだ」と分析した。

 「顧客価値は、必ずしも高性能なマシンで実現するものではない。顧客がゲームに望む価値は、自分がワクワクするとか楽しいとかという感覚。そこで任天堂は、できるだけ枯れた技術を使いながらユーザにはいままで得られなかったような価値を提供しようと考えた。任天堂の思考の中には“枯れた技術の水平思考”(任天堂の携帯用ゲーム機「 ゲームボーイ」の祖といわれる横井軍平氏の言葉。最先端のものでなく、さんざん使いこなれて枯れてきた、つまり安くなった技術を使いまわすという考え方)というものが染みついている。

 それによってDSやWiiが生まれ、それまでゲームおたくが自分の部屋に閉じこもっていたような状況が変わり、ゲーム機が家庭の団らんを取り戻した」

 次の事例はアップル。アップルのiPod、iPhone、iPadという一連の流れもスマート×リーンで語れるという。

 「iPodが出た時はソニーのWalkmanの全盛時代だったが、このWalkmanに対して次のイノベーションを考えていろいろなベンダーも製品を提供していた。しかし、iPodが作り上げた世界はコンセプトが違った。自分の好きな音楽を外に持ち出すというWalkmanの世界に対し、iPodは世界中のあらゆるライブラリを自分のものにできるというものであった。音楽だけでなく、写真や動画なども含め、自分の身の回りの愛着のあるコンテンツをぜんぶ持ち出せるというコンセプトで、単なる音楽の携帯端末という範疇を超えてしまった」

 これはiPodのスマート軸での取り組みだが、一方でリーン軸でも抜かりはなかった。iPodではサムソンやフラッシュメモリやLGのディスプレイを採用し、台湾のフォックスコンに生産委託するなど、世の中の一番良いものを組み合わせて製品を作るという思想があった。さらには、楽曲を購入するにもiTunes Music Storeという仕組みを作るなどトータルコストを下げた。これによってスマート×リーンの世界を作り上げた。

 「このように、どのような業界でも、新しいコンセプトを生み出すためにはスマートとリーンの両方をやりきることが大切」というのが名和氏の指摘である。

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