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戦略を学ぶ目的は「マネのできない理由」を見つけること(1/3 ページ)

「第17回 ITmedia エグゼクティブセミナー」の基調講演で、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建氏は、『究極の競争優位をもたらすものとは何か』と題し、「ストーリー」という視点から企業の競争優位がどのように形成されるかについて語った。

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戦略の神髄とストーリー

 500ページにも及ぶ大部のビジネス書にもかかわらず、異例のベストセラーとなった「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」(東洋経済新報社刊)の著者、楠木 建氏は「自分が楽しめない、面白がれない話で人と組織を動かしビジネスをしようというのは、ほぼ犯罪行為だ」と話す。なぜなら、面白くない、つまらない、楽しめないストーリーによって作られたビジネスプランは、ほぼ成功したためしがないからだ。うまくいかないビジネスに無理やり付き合わされて、疲れるだけの毎日を送らされるなんて、確かに犯罪に近いのかもしれない。


一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建氏

 「しかしね。楽しい、面白いなんて言いながらうまくいくビジネスなんてあるのかね」思わずそんなふうに反論したくなる向きもあるだろう。また「あのね。うまくいくから楽しいし、面白いんだよ。儲かるから楽しいのであって、最初から面白い話なんてあるわけない」なんて反応もあるだろう。

 「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるようなストーリーにある」と一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授の楠木氏は話す。ビジネス戦略論を語ろうとしているのである。おとぎ話のようなビジネス論をしたいのではなく、持続的に利益を生み出す企業が持つ戦略は、思わず身を乗り出し、「それで? その次はどうしたの?」と聞きたくなるストーリーを持っていると言いたいのである。

けもの道を走る経営者とそれを見つめる学者

 ビジネスの現場では、頻繁に「戦略」という言葉を使う。国家の軍事も戦略だが、スーパーマーケットが来週から通常より30%引きの白菜を売るということも戦略という言葉で語られることがある。言葉の意味や使い方をはっきり線引きしましょう、というのではなく、楠木氏はどんな戦略もストーリーを持っているという立場でわれわれに語りかける。

 楠木氏は経営の実務に携わる人々からの批判について、次のように話す。

 「『学者が後付けで話す理屈なんて役に立たないよ。実際の経営はそんなものじゃない』。そう言われることはあります。実際、経営者の方たちは長年培ってきた野生の勘を頼りに、ビジネスというけもの道を走っているわけです。会社を経営したい、ビジネスで儲けたいなんてこれっぽっちも考えていない私には同じ視点には立てないのです」

 では、現実の経営に役立つ戦略論なるものは、本当は存在しない?

 楠木氏はこの問いに対して、こんな説明をする。

 「けもの道を走っていない人間には、ひたすら走り続けている人には見えないものが見えるんですね。戦略というのは、無意味と嘘の間にあるものです。嘘というのは、『ぜったい成功する●●の法則』といった類の話です。法則というのは科学的に裏付けられたもの。ぜったいに成功する科学的に裏付けられた方法などはありません。しかし、法則はないけれど、論理は存在する。無意味ではないのです。実務でけもの道を走り続けている経営者の判断、社員の動き、これらを説明する論理は必ずどこかにあるのです」

 つまり学者はこの論理を見極めるのが仕事だと楠木氏は言いたいのだ。そして論理は、「ここでこういう判断をして、それに対して、次のように動いたから、こうした結果に至った」という因果関係で構成される。因果論理で構成されるものをストーリーと呼ぶのだ。

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