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戦略を学ぶ目的は「マネのできない理由」を見つけること(3/3 ページ)

「第17回 ITmedia エグゼクティブセミナー」の基調講演で、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建氏は、『究極の競争優位をもたらすものとは何か』と題し、「ストーリー」という視点から企業の競争優位がどのように形成されるかについて語った。

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アマゾンがもっとも大切にしたもの

 常識外れの一手について、楠木氏はアマゾンを例に説明する。

 「今から7年から、8年前のビジネス誌をご覧になってみてください。そこには連日アマゾンをボロボロにけなす記事が出ているはずです。例えば、巨大な倉庫の写真を掲載し、『この倉庫が何だか分かるだろうか。インターネット書店アマゾンが建設した倉庫だ。アマゾンはついに倉庫に多くの本を置き、在庫を抱えることになった。eコマース企業であるアマゾンは在庫を持たないスマートな経営をするのではなかったのか』といった具合です。この時点でアマゾンはもう終わりだという論調が大勢を占めていました。しかし、現実はまったく違っています」

 幾多のeコマース企業とはかけ離れた成長をし、巨大企業となったアマゾン。アマゾンの戦略ストーリーの中での、ライバルがぜったいにまねしない一手がこの倉庫を建設し在庫を持つというものだった。

 「戦略をストーリーとして捉える目的は、競争における打ち手の違いを明確に見極めることです。競争に勝つには違いを明らかにしなくてはならない。では、その違いをどういう形で打ち出すのかということです」

 ここで楠木氏は、1枚のスライドを見せる。アマゾンのビジネスモデルと思われるものを図にしたもの(左)と、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が創業間もないころに書いたコンセプト図(右)だ。


「ビジネスモデル」でもない

 「左の図は空間的な取引を配置しただけの図です。これをもってビジネスモデルと称し説明されることがほとんどだと思いますが、実はこれはビジネスモデルを説明したことにはなっていません。モノや金の動きが説明されているだけだからです。一方、ベゾス氏が紙ナプキンか何かに書いたのが原型だとされる、右の図。シンプルですが、因果論理が時間の中で捉えられています。私はこれこそが戦略ストーリーを示したものだと思います」

 このストーリーの図には、よく見てみると、「倉庫を持って、在庫を抱えてはいけない」ということは当然書いていない。代わって顧客の経験が重要視されている。楠木氏によれば、ベゾス氏は創業するとき、インターネットで24時間いつでも本が買える、あるいは安く買えるという利便性は既存の書店でも実現できる戦略だと考えたという。そしてインターネット書店でしかできないのは、客に合わせて書棚が変化すること、注文をしたらすぐに本が自宅に届けられることのはずだと気付いたのだという。

 「つまり、アマゾンが大切にしているのは、顧客がこれまでにない体験をするということなのです。eコマースだから、在庫を持たないと決めつけ、クリックしたらすぐに欲しい本が届けられるという驚くべき体験を提供しない、そんな判断は決してしなかった。何をなすべきことのトップに持ってくるかで企業のビジネスが変わってきます。アマゾンがトップに持ってきたもの、顧客の体験というポイントは今も外れることはありません」

 楠木氏の話は確かに戦略に関する話だが、それ自体が読み応えのある、最後まで気の抜けない面白いストーリーだと感じた。「戦略」、「競争」といった言葉でビジネスを考えるとき、「そこにどんなストーリーがあるのか。どんな打ち手が繰り出されたのか」といった視点を持つことはますます重要になるのではないだろうか。

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