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ビジネスイノベーションの次世代モデルは技術王道と事業覇道のせめぎ合い――東大の妹尾氏NTTDATA Innovation Conference 2011レポート(2/4 ページ)

NTTデータは、都内のホテルで「NTTDATA Innovation Conference 2011」を開催した。カンファレンスのテーマは「変革を実現するためのヒントや具体的な解決策を提供する」というもの。

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 「技術開発の段階から事業優位性を考えることが重要です。どのような価値形式やビジネスモデルでやろうとしているのか、これが問われています。どのようにすればビジネス上競争優位に立てるかを、真剣に考えることが大変重要なのです」

成長と発展の違い

 続いての講演のテーマは、今回のカンファレンスのキーワードともなっているイノベーション(innovation)という言葉そのものの捉え方に移行した。

 「それでは、イノベーションとは何でしょうか。日本を代表する経済新聞でさえ、いまだにイノベーションを技術革新と括弧つきで書いています。しかしイノベーションは決して技術革新ではありません! これは完全な誤訳です」

 技術革新はむしろ、インベンション(invention)であるという。

 「確かに、かつてはインベンションがそのままイノベーションを意味する時代がありました。しかし今はそうではありません」といって、妹尾氏は再び会場の聴衆に次のように問い掛けた。

 「皆さんにお聞きします。皆さんの事業は成長すべきと思っていますか、または発展すべきと思っていますか」

 同氏の経験によると、その答えで一番多かったのは「成長と発展の区別がつかない」というものであった。しかしその成長と発展の違いが、イノベーションの正しい理解につながるという。成長(growth)とは、同一モデル(既存モデル)の量的拡大のことである。たとえば子供が成長して大人になるというようなもので、小さな杉は成長して大きな杉になる。しかし小さな杉が成長しても、竹や松になることはない。つまり成長は、あくまで同一モデルの量的拡大を指す。

 つまり、会社が成長するということは、今の会社の仕組み(構想、ストラクション)、仕掛け(機能、ファンクション)、仕切(マネジメント)そのままで売上を拡大することを指す。

 それでは、発展(development)とは何か。これは新規モデルへの不連続的移行のことだという。先ほどの例でいえば、おたまじゃくしがカエルになるようなものだ。小さな杉は成長しても大きな杉にしかならないが、おたまじゃくしはカエルに発展することができる。成長と発展にはそれだけの違いがある。

 そして、イノベーションというのは、この後者の“発展”と密接に関係する。そして、前者の“成長”は言葉としてはインプルーブメント(improvement=改良、改善)と関係するという。

 「イノベーションは“創新”であり、技術で新たな価値形成を行うことを意味します。画期的なモデルを作り、既存モデルへ移行、普及、定着させるのがイノベーションです。これに対し、インプルーブメントは既存モデルを磨き上げていくことであり、これは日本企業が得意とするところです。しかし、インプルーブメントしてもモデル自体は変えることはできません。それに対し、イノベーションはモデルを変える、つまり創新することができます」

 日本企業は既存モデルを錬磨することは得意だが、モデルを創新することはあまり得意ではない。そのモデル錬磨とモデル創新の違いについて、妹尾氏が上げたのはソニーのゲーム機「PlayStation」と任天堂の「Wii Fit」だった。PlayStationは既存モデルを徹底的に磨き上げたインプルーブメントの製品。それに対し、Wii Fitはゲームのコンセプトを創新したイノベーションの製品ということになる。

 「今、世界でありとあらゆるモデルが変わっているのです。古典の極致のような自動車産業でも、電気自動車が登場して、あっという間にモデルが変わってしまった。それでもなお、多くの日本企業は古いモデルに固執しています。それが日本の企業の現状なのです」

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