分岐点を迎えた経営教育、MBAを考える:海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(1/4 ページ)
MBA課程の指導者が8つの現代ニーズに応えるために講じている手段とは?
この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。
3分で分かる『分岐点を迎えた経営教育、MBAを考える』の要点
- 経営学修士号(MBA)取得者の市場は変化している
- 今、定時制やエグゼクティブMBA課程を望む生徒が増えているため、経営学大学院は生き残るためには全日制MBA過程への需要が減っている現状に対処しなければならない
- 企業世界は、MBA課程はより適用性を持つべきだと考えており、学究的世界は学問に重きを置くべきだと考えている
- 同課程卒業生は、世界的視野、リーダーシップ能力、そして統合する能力を必要とする
- 同課程は、生徒に組織の現実に対処する方法、創造的および革新的に考える方法、そして上手な文章の書き方と話し方を教えなければならない
- また「リスク、規制、制限」そして「役割、責任、企業目的」に関するトレーニングも提供しなければならない
- 有数の経営学大学院の中には、ニーズに応えるために新しい手段を講じている所がある
- MBA課程は専門性を持つと同時に、批判的思考法や倫理をしっかりと教えるべきである
この要約書から学べること
- 大学院経営学の実態とは?
- MBA課程の指導者が8つの現代ニーズに応えるために講じている手段とは?
本書の推薦コメント
著者のスリカントM・ダタール、ディビッドA・ガービン、パトリックG・カレンは経営学修士(MBA)課程の現在の実態を調べる中で、教育の本質、そして企業がMBAを通して従業員に求める経営実務に関する要望などを列挙しています。世界経済の情勢や加速するグローバリゼーションに伴い、MBAも変化が求められています。簡単に言ってしまうと、経営幹部のキャリアに必要なスキルを身につけるプロセスと、経営実務において結果を出せるスキルの両立、そして受講する側の生徒達のニーズの変化に対応した教育体制の構築です。本書で得られるのは、ある意味、経営者や経営幹部がMBA取得とまではいかなくとも、最低限こういった知識は身に付けておく必要があるという情報を得ることができます。またMBAを取り巻く環境の変化が、今後の世界経済の動向に対するヒントをくれるように思えました。さまざまな視点から、ぜひ本書の内容を読み解くことをお勧めします。
最近では、日本においてもMBAを取得する人が増えてきているように思います。経営学を専門に学ぶということは、将来自らが起業をしたり、はたまた企業の中で経営に参画したりする人に必要のように感じられます。しかしながら、起業をすることや経営と経営学を学ぶことが、必ずしも一致していないようにも思います。なぜなら一流大学のMBAを取得しても、実際の経営に生かせていないことが多いのが現状です。では、MBAを本当に取る意味とは?そして今後の経営学はどうなって行くのでしょうか?この本では今後の経営学の在り方について詳しく述べられています。
変わりつつある市場における経営学
ハーバード大学大学院経営学研究科(HBS)は、2008年で100周年を迎えました。運営者達は、この100周年を経営学とはどうあるべきか、特にMBA課程はどうあるべきか問いかける良い機会だと考えました。この問いに答えるためには、最も優秀な経営学大学院が何を実践しているか見る必要があります。ハーバード大学、欧州経営大学院(INSEAD)、シカゴ大学、エール大学、スタンフォード大学、クリエイティブリーダーシップ・センター(CCL)などの一流経営学大学院は、経営学の流れの先を行く「先導者」です。上記の大学が取った行動は多くの場合、残りの高等教育に広がります。同大学の学部長や教授陣が経営学とはどうあるべきか語る時、同業者達はその話に耳を傾けます。
表面上、MBAの市場は「健全」に見えます。米国では、なんらかの形で経営学修士号を取得しようとする生徒の数が1969年から1970年は約21,000人でしたが、2006年から2007年は約150,000人と増加しました。しかし、MBA市場および修士号そのものは過渡期にあります。数十年前、MBA課程はほぼ一様に2年間のプログラムでした。しかし、現在、従来の修士号に取って代わるプログラムが沢山出てきています。例えば、生徒はMBA課程を1年制、定時制、通信制から選ぶことができますし、あるいは従来の教育環境の外で行う集中的なワークショップやセミナーに参加することができます。調査では、現在、全日制のMBA 市場に空洞化が起こっているとの結果が出ています。
MBA課程の生徒も変化を見せています。1998年、GMAT(大学を卒業した米国人の語学力や数学力を判定する試験。大学院へ入るための標準的な入学試験)を受け、一流の大学院へスコアを提出した生徒の内、米国大学へ留学した外国人の割合は24%でした。しかし、2007年までに、同じように一流の大学院へスコアを提出した生徒の42%を外国人が占めるようになりました。その内訳は、21%がインド人、8%が中国人です。これに加え、定時制のプログラムがすでに仕事をしている生徒を、エグゼクティブ・プログラムが中堅のビジネスマンをひきつけています。実際、入学者が増えているのは定時制とエグゼクティブ課程です。これを受け一流の大学院を除くすべての大学院が、任期制の非常勤職員や実務を教える教授を雇うことでMBA課程に対する要望に対応しています。
過去、生徒は自分達のキャリアの出発点としてMBA課程を選んでいました。今も同じように選んでいる生徒がいる一方で、リスクは大きいですが、MBA課程を転職するための1つの手段として利用する人もいます。雇用主は今でも一流課程の卒業生を雇用する傾向にありますが、MBAを取得した生徒の市場は変わりました。経営学修士号を取得することはもはや、最高のキャリアをつかむための「約束された確実な方法」ではありません。企業が内部昇格を行ったり、学士号取得者を採用したり、他の学部卒業の学生(科学など)を雇用したりするため、MBA課程の卒業生の中には就職戦線で立ち往生してしまっている人がいます。
MBA取得とは、過去においては1つのブランドでした。しかし、その名前ばかりが先行しすぎ、取得する人があまりにも多くなってしまったということが問題なのかもしれません。実際2年間のカリキュラムを行わねばならないのに、取得希望者を増やすための施策が、MBAの地位を下げてしまったのではないでしょうか。
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