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「節電目的でテレワークのシステムだけを導入してもBCPの効果は薄い」――田澤由利氏テレワークは日本企業を強くする!(2/2 ページ)

新特集「テレワークは日本企業を強くする!」では、在宅勤務のあり方について企業や有識者の意見を伝えていく。第1回は、日本におけるテレワークの第一人者で、国のテレワーク施策にも提言している田澤由利氏だ。

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テレワーク導入成功のためのハウツーをピックアップ

 しかしテレワークを単なるBCPの延長としかとらえていないのであれば、その導入はたいていの場合、失敗に終わってしまう。テレワーク導入を成功させるためには、企業と従業員の双方が心得ておかなければならないポイントがある。

 「まずテレワークは“生産性を向上させるもの”という認識をもってください。そしてテレワークで実現したい目標を明確にすること」と田澤氏。これまでテレワークは育児・介護休暇を取る従業員(主に女性)の福利厚生的なシステムとみなされていたが、そうではなく、テレワークは万人のものという意識を持つことが重要だという。

 BCPをきっかけにして導入することは重要だが、「導入するなら長期に渡って本格的に導入するつもりで」とアドバイスする。夏に予想される大規模な電力不足を考慮し、節電の一環としてテレワークを導入したいとする企業もあるが、「夏に始めて秋に終わるテレワークでは意味がない。やるなら、テレワークで実現する目標をしっかり定めてください」と田澤氏は協調する。

 できれば「設備費を○○%削減する」のように、定量的な数値目標を掲げたほうがいいだろう。「テレワークのためのITソリューションもたくさんありますが、ツールを導入すれば可能になるという単純なものではありません。テレワーク導入はどの企業にとっても簡単ではないチャレンジなのです」と田澤氏。だからこそ必ず成功させるという覚悟と、具現化のための目標が重要なのだ。

 次にクリアすべき点は「テレワークでは人事評価が難しい」という問題だ。大多数の日本企業は時間労働制を採用しており、これをテレワークで管理するのは非常に困難だ。テレワークは基本的にみなし労働をベースにしているからである。「在宅での業務を許可すれば、従業員は見えないところでサボるのではないか」「8時間労働と申告しているが、実際には半分も働いていないのでは」という経営側からの不安や猜疑心をそのままにしてテレワークを採用することは絶対に避けるべきだと田澤氏は念を押す。

 「時間労働制からみなし労働制へのシフトはすぐにできるものではありません。そこで、例えば業務をITで見える化することが考えられます」と田澤氏。見える化といっても、Webカメラを取り付けて監視するような方法ではない。コミュニケーションと時間管理のIT化だ。

 コミュニケーションに関しては、多くの企業においてメールが主流だという。しかしメールは数が増えてくるにしたがって、チェック作業が面倒になりがちだ。とりわけ、プロジェクトチーム内でメーリングリストを立てている場合などは、自分に関係ないスレッドを飛ばしているうちに、いつしか関係のあるメールまでスルーしていたということがよく起きる。

 そこで田澤氏は、すぐできる対策として、メールのタイトル(Subject)を工夫することを提案する。タイトルには誰から誰へ宛てたものかと内容の主旨を明記する。そうすることで受け取った人はそのメールが自分に関係あるかないかがひと目で分かる。例えば「伊藤から山田へ: 6月のイベント手配の件」のようにタイトル付けをすることで、効率的なコミュニケーションを図ることができる。

 また、メールだと通信記録が残り、ノウハウが蓄積されるというメリットがある。「仕事のコミュニケーションの基本は“ほう・れん・そう”(報告、連絡、相談)です。テレワークにおいてもこれは変わりません」と田澤氏は強調する。メールの運用ルールをしっかりと決め、全員がこれを守るようにすれば、テレワークでのコミュニケーションは大幅に改善されるのだ。

 時間管理についても、企業と従業員双方の努力が必要になる。例えば、在席状況を管理するソフトを入れておき、在宅勤務の従業員にその都度状況を表示するようにルールを決める。もし仕事中にYouTubeを見たくなったら、「仕事中断中」のフラグを立てて見ればよい。トータルで決められた時間をしっかり働けばよいという環境づくりをすることで、テレワークは成功へとつながる。セキュリティやWeb会議システムの導入だけでは、非常時の事業継続や生産性向上のメリットは得にくいのだ。

ネットオフィス型テレワークに必要なITシステム
ネットオフィス型テレワークに必要なITシステム

取材を終えて ― 東北の復興にもテレワークの活用を

 現在、田澤氏は総務省や厚生労働省など国の機関とも協力してテレワークを推進している。Facebookのコミュニティー「テレワークで日本を変えよう! 〜 TELEWORK.JAPAN」もその活動の一環だ。国もずいぶんと積極的になったが、まだまだやるべきことは多く残っていると語る。

 「震災で仕事をなくした東北の方々がテレワークで東京や大阪の仕事ができるような環境を、国は積極的に整えていくべきです。また、大きな企業は東北の在宅勤務者に仕事を回すことも考えてほしいですね」。復興に向けた長い道のりにあって、テレワーク導入がもたらす効果は、想像以上に大きいのかもしれないと感じたインタビューだった。

テレワーク導入にあたり企業がすべきこと、してはいけないこと

ToDo

  • テレワーク導入は簡単ではないことを認識する
  • テレワークで実現すべき目標を具体的に定めつつ、今できることから始める
  • IT化においては「コミュニケーション」と「時間管理」を重視する
  • コミュニケーションは“ほう・れん・そう”を意識する
  • 企業側は“見るためのインフラづくり”を、従業員側は“見せる姿勢”を
  • ルールを徹底し、企業と従業員の双方が守る努力を

Not ToDo

  • BCPのためだけのテレワークという見方をしない
  • “夏だけのテレワーク”のような短期的なテレワーク導入はメリットを得にくい
  • 従業員に対して猜疑心をもった状態でテレワークを導入してはならない
  • TwitterやFacebook、チャットなどをコミュニケーションのベースにしない


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