神戸の大学生が被災者の写真を修復、復興への架け橋となれ:思い出よ、蘇れ!(2/2 ページ)
阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた神戸・ポートアイランド。その人工島で学ぶ大学生たちが東北の被災地支援に向けて懸命に取り組む現場を取材した。
津波が街も思い出も奪い去った
こうして、4月2日にあなたの思い出まもり隊プロジェクトはスタートした。まずは神戸学院大学の学生を中心に活動を開始し、その後、工学院大学や東北福祉大学、ゆくゆくは近隣の大学や企業からもボランティアを募っていきたいとしている。
現在、40人ほどの学生および一般市民がプロジェクトに携わっている。中には、既に何度か被災地である東北にボランティアで訪れた学生もいる。現地で被災者が「自分たちの故郷である街が津波で丸ごと流されてしまい、思い出も何もかも失ってしまった」と話すのを聞き、深く悲しんだ。学生の多くも幼少のときに、阪神・淡路大震災で被災し、同じような経験をしているからだ。「思い出は絶対になくてはならないもの。神戸にいてもできることはあるはず」。ある学生はこうした思いでプロジェクトに参加した。
また、ある学生は、「今までは写真を見て思い出を振り返ることはなかったが、今年2月に最愛の母が亡くなって、写真の持つ力の大きさが身にしみるほどよく分かった。写真を通じて母との思い出を回想できる」と自らの体験を語り、このプロジェクトの意義を説明してくれた。
アナログとデジタルの作業を組み合わせて写真を修復
では、具体的にどのような流れで写真修復が行われるのか。まずは、被災者自身、あるいはその家族、親類などから神戸学院大学に写真現物が送られてくる。比較的損傷の少ないものもあれば、泥をかぶり、写真の一部が破れてしまっているものもある。それらをボランティアがデジタルカメラで一枚一枚撮影する。万一の破損に備えたり、写真の誤返送を防いだりするためだ。
次に、写真を丁寧に洗浄し、約2日間乾燥させる。そして乾いた写真をスキャナーでデジタルデータとして取り込み、Photoshopで修復・加工を施していく。届いた写真はできるだけ早く洗浄したいという思いがあるものの、洗浄は屋外で行うため、天気の良い日にしか作業できないほか、乾燥させるスペースもわずかなので、一度に作業できる枚数が限られてしまうのが課題だという。
Photoshopで主に使用する機能は、「修復ブラシツール」と「レイヤー」の2つ。前者は洗浄でとれなかった泥などの汚れや傷を取り除くために、後者は色あせてしまった箇所を部分的に色補正する際に活用している。ボランティアに携わる学生はこれまでPhotoshopに触れたことすらなかった。当然のように最初は操作に悪戦苦闘したが、地元・神戸に住むデザイナーが無償で講習会を開いてくれるなどして、徐々にツールの活用方法を習得していった。「操作に不慣れな学生でもボタン1つで簡単に写真を補正できるため、とてもスムーズに作業を進めることができ、助かっている」と舩木氏は評価する。
こうしてデジタル加工された写真は、現物と比較して修復確認した後、写真用紙に出力、CD-Rにデータを保存して、依頼者に元の写真とともに返送する。
まだまだ人手は足りないが・・・
現在、1日あたり依頼者4〜5件から写真が神戸学院大学に送られてくる。ボランティアの人数との兼ね合いもあり、原則として、写真修復の依頼枚数は一人20枚に制限している。しかし、思い出を絞り込むことは酷だ。50枚や100枚、中には1000枚以上の写真を送ってくる依頼者もいる。決して彼らに悪気があるわけではない。写真に同封されていた手紙には「ご対応いただける枚数を超えているのは承知しております。けれど、どれも大切な思い出の詰まった写真なのです。どうぞ綺麗にしてください」と書かれたものもあったという。思い出の日々を取り戻したいという強い気持ちがそこには込められているのだ。
作業部屋に並べられた写真を見ると、産まれたばかりの娘の写真、結婚式の写真、一家団欒で食卓を囲む写真など、依頼者の人生において忘れ難い場面ばかりである。写真一枚一枚には、その人の人生が凝縮されており、写真の持つ力がここまで凄まじいのかと思い知らされるほどのインパクトを放っていた。
現在、写真1枚あたりの修復作業時間(Photoshopでの作業工程)は1時間かかるため、仮に4人のボランティアが張り付きで5時間作業したとしても、1日でデジタル加工できる写真は20枚にとどまる。一方で、依頼者からは毎日のように写真が送り届けられており、その数は累計で約1万5000枚(2011年6月29日現在)にもなるという。
同プロジェクトの目下の悩みは、ボランティアの人数が足りないことだ。ただし、一気に拡充できない現実もある。1つは作業スペースが神戸学院大学にしかないため、収容できる人数が限られていることである(工学院大学でも準備を進めているが、まだ正式スタートには至っていない)。では、近隣の大学や企業にスペース提供や人員の協力を依頼したり、全国から個人ボランティアを募ったりすればいいのではないか。しかし、もう1つの課題として、セキュリティを担保しなければならないということがある。
ボランティアが扱うのは、被災者の私的な写真であり、個人情報の固まりともいえるものである。もし作業の過程において、写真を紛失したり、デジタル化したデータがインターネットなどに漏えいしたりしてしまったら、このプロジェクトは依頼者から信頼を失い、もはや存続は困難となるだろう。そのため、どうしても作業場を限定したり、参加するボランティアを厳選したりする必要があるという。ここが大きなジレンマとして常に現場には存在している。「一日も早く被災者の方に写真を戻したい。でもそれが現実的にはできないことがもどかしい」と、参加者の一人は漏らす。
震災復興までの道のりはまだ長い。一時も早く被災地に笑顔が戻り、新しい思い出を作れるような生活がスタートできるよう、遠く離れた神戸の地でボランティアたちは今日も懸命に写真を修復しているのだ。
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