日本企業の「現場力」、欧米企業の「経営力」のハイブリッドを目指せ:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)
日本人に特有のコミュニケーション技術「すり合わせ」が効果を発揮することがある。しかし、すり合わせは万能ではない。なぜかといえば妥協を生みやすいから。では企業が目指すべき方向は。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
あなたは、ビジネスの現場で、「すり合わせ」という言葉を聞いたり使ったりしませんか。この言葉は、2人、ないしは数名で意見を調整し、合意するときに使われます。信頼し、尊重し合った者同士が、お互いの知識や意見を出し合い、その相違点を明確にし、お互いの溝を埋めるために「歩み寄る」。それによって、お互いに納得のゆく合意形成を行うというものです。
実はこの「すり合わせ」、日本人に特有のコミュニケーション技術なのです。欧米のビジネスマンにこの言葉を説明しようとしても、なかなか理解してもらえません。
例えば、日本の自動車産業はすり合わせ型の産業といわれており、これほどの活況を呈しているのは、すり合わせの技術によるといえます。一般に、すり合わせ技術は、日本人の優位性のひとつとして、好意的に捉えられています。1例として、日本のとある自動車メーカーで働く、商品企画部の高橋さんと設計部の鈴木さんの「すり合わせ現場」をのぞいてみましょう。
高橋:今回、エンジンの重量を5パーセント軽量化してほしいんです。
鈴木:性能は10パーセント強化してるんですよ。
高橋:だからこうして相談に来ているんです。
鈴木:じゃ、燃焼室を設計変更して、そこで性能を稼ぐしかないですね。コストは若干上がります。それに、試験内容を見直さなければならない。実車試験のスケジュールにも影響が出ますよ。
高橋:多少のコストの上昇は、現段階であれば吸収できます。実車試験のスケジュールは、明日、実験部と掛け合うので気にしないでください。
このすり合わせの結果、新型エンジンは、性能目標と軽量化目標の両方を達成することができました。車両全体のコストも計画内に収まり、予定通りに発売が開始されました。すり合わせが効果を発揮した好例といえるでしょう。しかし、すり合わせは万能ではありません。マイナス面を露呈することもあります。なぜかといえば、すり合わせは、妥協を生みやすいからです。
そもそも、ものごとにトレードオフ(共存できない、相反する要素)はつきものです。これを解決するすべがあれば、それは差別化の武器になりますが、そう簡単ではありません。すり合わせでは、たいてい、お互いの目的にできるだけ近づけるような「落としどころ」を模索します。それは、ときとして妥協につながります。
もう一度、高橋さんと鈴木さんの会話をみてみましょう。
高橋:今回の新製品は、10月末までに販売できないと、他社に先を越されてしまうんです。
鈴木:開発チームも目いっぱいなんです。
高橋:じゃ、11月の中旬くらいにはなんとかなりませんか。
鈴木:高橋さんがそこまで言うなら仕方ないですね。それでなんとかしましょう。他の役員連中は大丈夫ですか。高橋さんに、開発日程をずらす権限なんてあるんですか。
高橋:役員連中には来月の定例会議で承認をとるから平気だよ。ダメと言われても、もう間に合わないけどね。
鈴木:それもそうですね。
このようなすり合わせを繰り返した結果、新製品の発売は、3カ月遅れてしまいました。この遅れは、他社に独占販売時期を与えてしまっただけでなく、ブランドイメージ構築の好機まで与える結果となりました。個別に落としどころを見つけたがために、そもそものビジネスの目的を逸脱してしまったわけです。
日本企業の「すり合わせ」は、責任の所在を曖昧にしたままに、とかく、その場限りの「部分最適」へと向かってしまいます。
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