今の日本に必要なリーダーは「狩猟」か「農耕」か? 佐々淳行氏:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、危機対応能力は個人の性質に依存すると説明する。「狩猟民型」か「農耕民型」かの違いだ。その性質を踏まえた上で、組織はどのようにして危機に備えるべきか。
危機に強い「狩猟民型」
一方、農耕民型リーダーと対比される存在である狩猟民型のリーダーには、活動的な壮年が多いという。この種のリーダーは、狩りをする集団を率いて最前線に立つ人物にたとえられる。
「部下に任務分担させて狩りを行い、自分で獲物の最も良い部分を取った上で、役割分担に応じて肉を分配する。肉は保存がきかないから、すぐ次の目標を決めて取り掛かる。もし失敗したときはナンバー2が交代を要求し、すぐさまこれに代わる」(佐々氏)
こういったリーダーは、悪い情報や悲観的な情報をまず気にするのだという。耳をふさぎたくなるような情報でも我慢して聞かねば、危機に強いリーダーにはなれないからだ。佐々氏は、その一例として、中曽根内閣を支えた内閣官房長官、後藤田正晴氏を挙げた。大韓航空機撃墜事件や、伊豆大島の三原山噴火による全島避難などの対応で、官房長官として優れた危機管理能力を発揮した後藤田氏は、佐々氏ら室長級の部下に対し、以下のような訓示を行ったとされている。
- 出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え
- 悪い本当の事実を報告せよ
- 勇気を以って意見具申せよ
- 自分の仕事でないと言うなかれ
- 決定が下ったら従い、命令は実行せよ
また、後藤田氏は「会議が嫌い」だったといわれる。狩猟民型のリーダーは、農耕民型のリーダーとは異なり、時間をかけて調整するのではなく、迅速な決断を好む。そのような意志決定こそが、危機対応には相応しいと佐々氏は声を張る。
「後藤田さんは、閣僚が人を連れてくるのも嫌がった。自分の担当する省庁くらい自分で説明しろというのだ。また、米国政府が危機対応の際に使う『シチュエーションルーム』を見学させてもらったことがあるが、その会議室も少人数しか入れないようになっていた。6〜7人でやらないと会議が紛糾してしまって決まらないから、というのが理由だ。大きな問題に当たるには、少人数で決断を下した方が都合がいい」(佐々氏)
部下はリーダーの決断を待っている
こうしたリーダーシップの差は、言うまでもなく部下の活動に大きな影響を与える。佐々氏は、あさま山荘事件の際、上層部が陥った不決断に苦しめられたエピソードを紹介した。
「人質の健康状態などを憂慮して、現場では早く突入せねばと志気が高まっているのに、東京の方からは『天候不良で延期』という命令が何度も繰り返された。温かい東京の会議室では、いつも冷え込む現場の状況も分からないだろうに。下の立場としては、上が決めてくれないことほど難しいものはない。部下は決断を待っているのだ」(佐々氏)
あさま山荘事件当時、佐々氏は警察庁の警視正として現場に派遣されていた。警察では上級職から現場に入るのが慣例となっているのだ。こうした経験の数々を踏まえ、佐々氏はリーダーが自分自身の特性を踏まえた上で的確な人事を行うことを推奨している。
「現場で指揮官になれる能力を持つ人は少ない。多くの人は農耕民型か狩猟民型のどちらかであり、両方の特性を持ち合わせる人は滅多にいない。それ故、自分自身の性質に合わせてパートナーを選ぶべきだろう。自分が調整型すなわち農耕民型なら決断型・狩猟民型の、狩猟民型なら農耕民型の人物を身近に置き、補い合うことが肝要だ」(佐々氏)
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