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『ビブリア古書堂の事件手帖』著者 三上延さん話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”(2/3 ページ)

徹底的なリアリティで知られるこれまでの作品とは対照的に、どこかおとぎ話を意識したような、やわらかい語り口で書かれている。バラエティに富んだ作品の中でも異彩を放つこの作品はどのような背景と土壌を持って生まれてきたのか?

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主人公の2人は自分の両極端な部分から作り出している

 ――本作には本が好き、苦手問わず魅力的な登場人物が出てきますが、キャラクター作りにおいて悩んだ点はありましたか?

 三上:「実は正直ここまで多くの方に読んでいただけるとは思っていなかったのですが、キャラクターを分かりやすくしようとは最初から考えていました。古書という題材そのものがとっつきやすいものではないと思っていたので、その分なるべくキャラクターを魅力的にして、少しでも楽しく読んでもらえるようにしようとしていました。また、特に主人公の2人(大輔、栞子)をどういった関係性にして、どういうキャラクターにするかというのはすごく悩んで、書きながら変えていった部分もありますね」

 ――この『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの中で、三上さんご自身に最も近いと思うキャラクターは誰だと思いますか?

 三上:「特にいないですね。ただ、大輔と栞子の中間くらいに自分を置いている感覚はあります。僕自身、本は好きだけれどもマニアではないので、栞子みたいになんでも即答できるわけではありません。ただ、大輔みたいに本のことをもっと知りたいという気持ちがあるので、2人とも自分の延長線上にいる人物として書いています。言うなれば、自分の中の極端な部分から2人を作って、それに会話させているような感じです」

 ――では、本作のキャラクターの中で一番思い入れの強いキャラクターは誰ですか?

 三上:「全員に思い入れがありますが、強いてあげるのであれば、大輔の元彼女(高坂晶穂=2巻・福田定一『名言随筆 サラリーマン』で登場)ですね。今までは電撃文庫で中高生向けの物語を書くことが多かったのですが、主人公に昔、彼女がいたという話をほとんど書いたことがなかったんです。だから、こういうキャラクターを書いたことが初めてだったので非常に印象的でした」

 ――このシリーズで題材とされている本は、夏目漱石や太宰治といったよく知られている文豪の本から、比較的あまり知られていないような作品まで、とても幅広いラインナップとなっています。先ほど、ご自身はマニアではないとおっしゃっていましたけど、マニアと言えるのではないか、と……。

 三上:「いや、古書の世界はものすごいんですよ。本当に好きな人と話すと、自分が恥ずかしくなるくらい。だから、自分がマニアだとは思ったことがないですね。アルバイト時代も、本に詳しいお客さんから教えられることが多くて、『こんな値段で出したらダメだよ』と注意されることもありました(笑)」

 ――各エピソードのテーマとなっている本はどのようにして選んでいるのですか?

 三上:「これを題材にしたら面白いのではないかというところで選ぶこともありますし、最初にキャラクターの話を決めてから本を当てはめるという場合もあります。いろいろですね。ただ、基準としてはお話として面白いかどうかというのが一番にあります。この『ビブリア古書堂の事件手帖』の物語の形にしたときに、読者にとって面白いかどうかが一番の基準ですね。逆に言えば、その基準が満たされていればよく知られている本でも、そうではない本でも物語は成立するのかなと思います」

 ――この『ビブリア古書堂の事件手帖』の舞台となっている北鎌倉や湘南地区は、三上さんの馴染みの土地なのだそうですね。

 三上:「僕の実家が藤沢にあって、高校は北鎌倉にありましたから。その頃を思い出して書いています。作中でも大輔の通っていた高校が山の上にある設定なのですが、実際に僕が通っていた高校も北鎌倉の山の上にあるので、地元の人が読むとすぐ分かると思いますよ。感想のメールの中にも『多分、同じ学校です』というのが届いたりします(笑)」

 ――三上さんも2巻の「あとがき」で述べられていますが、実は北鎌倉って古書店がないんですよね。

 三上:「そうなんですよ。鎌倉の方には駅の周辺にいっぱいあるのですが、北鎌倉については、僕の知っている限りではありませんね。骨董品屋はいくつかあるのですが……。いかにもありそうな土地ですけれど、意外にないんですよね」

 ――このシリーズは三上さんのこれまでの作品の中では新しい作風ですよね。そういったところでの苦労もあるのではないでしょうか。

 三上:「日常を舞台にした話は書いたことがなかったですし、ミステリを書くのも初めてでしたから苦労はしましたけど、他の作品も同じように苦労しているので、ものすごく違うことをやったという意識はないですね。いつものように苦労をして、いつものように送り出したという感じです」

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