面倒くさがりだからこそ作れた、新しいコミュニケーションモデル
ここで、私の体験をお話しましょう。
私はビジネスマンを対象に、コーチングやカウンセリングを行っています。コミュニケーションスキルを身に着けるために、今までさまざまな理論や手法を学習してきました。「経営」「営業」「リーダーシップ」「問題解決手法」のようなビジネススキルから、「信頼関係の築き方」「傾聴」「問いかけ」「相手のタイプに合わせたコミュニケーション」まで、その学習範囲は大域で複雑です。
例えば「相手のタイプに合わせたコミュニケーション」では、相手の特徴を理解し、「○○タイプの人には、○○の接し方を」「クライアントの課題が●●の場合は、●●の問いかけを」というような学習をします。けれども、いざクライアントを目の前にすれば、時々刻々と変化していく会話の流れの中で、「この人は○○タイプだから、○○の戦略でいこう」と、相手のタイプに合わせて会話を組み立てていくのはかなり複雑で、容易ではありません。
血液型で考えていただくと分かりやすいかもしれません。「A型は真面目だから○○という戦略で行こう」と考えながら会話をするのがいかに難しいか。そもそも、相手の血液型を見抜くこと自体が難しいのですから。
人は一度に多くのことを意識できません。複雑な仕組みは理論的には面白いのですが、現場では面倒くさくて使いにくいのです。コミュニケーションで本当に大切なことは、相手をタイプ別に分類してカテゴライズすることではなく、一人ひとりに寄り添い、その人に合わせた対応をしていくことのはずです。
「誰もが簡単に、シンプルな方法で、相手が本当に大切だと思っていることを聞き出し、望ましい姿にリードするためにはどうしたらいいか……」を突き詰めて考えていったら、最終的にたどり着いたのは紙一枚で表現できるシンプルなコミュニケーション手法でした(これを、トライアングルコミュニケーションモデルと言います)。
もし私が「複雑な方法は面倒くさい」と感じなければ、改善策を考えようとは思わなかったでしょう。「面倒くさがりでよかった」です。
もしあなたが私のように面倒くさがりなら、今まではそれを望ましくない性格だと思ってきたかもしれません。けれども私たちが抱くすべての思いには、ネガティブな側面と、ポジティブな側面があります。「面倒くさい」は「本当は○○だったらいいのに」という前向きな気持ちがあるからこそ抱く思いです。
冒頭でもお話したように、単に面倒くさいと言葉にする態度は、周りに批判的な空気を作り、後ろ向きな印象を与えますし、ときには信頼関係を崩しますから避けるべきです。
けれども面倒くさいと感じること自体は、「もっといい方法があるのではないか?」を考えるアラームシステムなのです。もし、「あ〜、面倒くさいな〜」と感じることがあったら、「本当は○○だったらいいのに」を考えてみてください。そして、上司に「段取りが複雑な△△を、○○に改善しませんか」と提案したり、もっと簡単にできるようにやり方を変えたりしてみてください。小さなことで構いません。完ぺきである必要もありません。
前向きな改善策を提案すれば、上司はあなたを評価するでしょうし、ちょっとした改善によって、周りの同僚からは「あれ、この資料作りやすくなっている!」「分かりやすく改善されている!」とあなたの気付きの感度に驚き、感謝するでしょう。
面倒くさいという気持ちを抱きやすい人は、他の人が気付かない改善策に気付くことができ、複雑な仕組みをシンプルに変えられる可能性を秘めている人です。その強みを生かしていきましょう。
社会が複雑化し、何が答えなのか分かりにくい時代です。こういうときこそ、シンプルに考えることも大切です。
著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)
NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。自動車メーカー、ソフトウエア開発会社を経て、現職。プレッシャーの多い職場で自身が精神的に追い込まれる中、リーダーを任される。コーチングや心理学の手法を実践しチーム変革に成功。難しいコミュニケーションスキルを誰もが使えるようにした「トライアングルコミュニケーションモデル」を考案。思考法やコミュニケーションをテーマとした研修・セミナー・講演・執筆活動を行う。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。
連載記事「人生はサーフィンのように」をeBook(電子書籍)にまとめた「やる気が出ない本当の理由」を発売。詳細はこちら。
サーフィンのように楽しみながら、人生の波を乗り越えよう。竹内義晴さん執筆人生はサーフィンのようにのバックナンバーはこちら。
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