これからの企業は21世紀型市場に適した持続可能な事業戦略を:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)
ITmediaエグゼクティブ勉強会の講師は、ジャーナリストで事業創造大学院大学客員教授 上村氏。21世紀型の市場に適した、持続可能な事業戦略が求められていると語った。
今回の題は「311震災後の市場・社会意識の変化に対応する経営革新、ビジネス戦略を考える」。上村孝樹氏は情報系の企業に勤務した後、ビジネスやIT関連の媒体で活躍し、数々の企業の戦略をつぶさに観察してきた経歴を持つ。近年では経営者やビジネスマン向けのワークショップなども催している。
最近になってますます顕著になってきた20世紀型経済システムの弱点
「“成長イコール事業継続”ではない。“規模の成長がなければ社会が成り立たない”という考え方はナンセンス。宇宙船地球号という言葉もある、限りない成長など有り得ない。経済の目的を突き詰めて考えてみると、ひとり一人異なる際限のない人間の欲求に対して限りあるリソースをどのように最適に配分するか、という命題に立ち向かう事。人がベースの学問だということを忘れてはならない」(上村氏)
今世紀の経済環境は、20世紀とは大きく変わった。先進国の成長は停滞し、需要は伸びていない。21世紀型市場は非成長型であり、供給過剰のため買い手市場となっている。また物流や情報の流通が拡大して市場全体がグローバル化する一方で仮想化やローカルな小商圏化も進んでいる、と指摘した。20世紀の成長を前提とし大きな需要を充足させることに重点を置いた企業活動を経済学の原点に立ち返って考え直さなければならない、と言う。
「20世紀のようにモノが足りない時代というのは、一時期しか続かない。中国市場が大きいといっても、すぐに飽和する。持続可能な企業経営に転換する必要がある。しかし、市場が非成長型にシフトしている今もなお、20世紀に成功した成長戦略を基準としている企業が多い」(上村氏)
この21世紀の市場で勝ち残っていくために、企業はどのように変わるべきか。上村氏は「ターゲットを明確にし、顧客深耕を」と訴える。
「もはや処女地などない。市場開拓には、誰が顧客化を明確にし他社との切り口を変えて取り組むしかない。これまでのマスマーケティングとは違った方法が求められる。もちろん、そのためには知恵を使う必要がある。また、深耕したところで、売上としては過去のようには大きなものにならない場合が多い。そして日本の多くの企業、特に大企業では、上層部に大量生産・大量販のマスマーケティングで成功した人たちが居座っており、その成功体験に縛られている。基本的な顧客深耕の取り組みさえ進められないケースも多い」(上村氏)
ITやBPOの活用で容易になってきた老舗型戦略
続けて上村氏は、顧客深耕の具体論を紹介していった。長い付き合いを前提とし、「個客」すなわち一人ひとりの顧客を大切にしていく「老舗型戦略」だ。
「この戦略は、決して大規模を狙うわけではない。他社との無益な競争に陥らないよう賢く自社をポジショニングした上で、ターゲットを明確化して、その個客のリピート率を上げるべく個客と自社との間で価値を共有していく。付加価値で顧客とつながるリピートオーダー戦略だ。こういったことをしていかないと、21世紀型市場でのビジネスの持続性(サステナビリティ)は難しい。大変で面倒臭いことではあるが、一つひとつは当たり前の基本的なことであり、ITの支援でスマートに実現できる部分も多い。例えば個客に対する深耕度管理などは、簡単にシステム化できる」(上村氏)
手法自体は決して目新しいものではない。むしろ「老舗型」の名が示すように、古くからある手法を着実に実施していくことに重点を置いている。そしてITの活用や、市場分析や顧客の分析手法など、新しい考え方を取り入れ、より効率的かつ効果的に実践できるよう工夫していくことが必要だ。例えば顧客深耕度の把握にCRMを活用、効率化すると同時にマルチチャネルでの顧客接点の統合を実現するといった具合だ。
「BPO(Business Process Outsourcing)を活用する手もある。最近ではECサイト機能、倉庫・物流機能、決済機能など、総合的にビジネスプロセスを受け持つBPOが提供されており、特にBtoCで広く使われるようになってきた。BtoBを主とする企業でも、コンシューマーに売れそうな商品があれば、BPOの活用でBtoCへ乗り出すことが容易になった。このBPOにもITが活用されており、社内システムと連携し、社内の機能と同じように、いやむしろ社内よりしっかりと、情報をリアルタイムに見ることができる」(上村氏)
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