ビジネスに直結したソフトウェア開発を推進――性能や品質の向上に取り組むリクルートテクノロジーズ(2/2 ページ)
「リクナビ」や「SUUMO」「カーセンサー」など、日本最大級の情報サービスを展開するリクルート。そのサービスに不可欠なITソリューション。ビジネスに直結するソフトウェア開発をいかに推進しているのか。
新たなサービスは業務とソリューションの密なコミュニケーションから生まれる
―― 業務とソリューションはどのように関連づけられるのでしょう。
米谷 IT戦略を推進している部門がITMであり、ソリューションを推進している部門がITSです。この2つの組織で、「ITM/ITS接続会議」を週1回開催しています。
各事業の事業戦略を理解しているITMから、例えば「今期は競合に対抗するためフロントの性能を向上させたい」などの要望を出します。それに対し、ITS側のUIを見ているグループが協力できますとか、SEOグループが対応できますとか、大規模開発が予定されているのであれば大規模開発を専門で進める部隊のソリューションを用いて一気に再構築しよう、などといった提案がなされます。
逆に、ITS側で開発しているソリューションや新たな技術を説明することで、ITM側がその技術を新しいサービスや商品で使いたいという要望を出すこともあります。業務と技術の組織が明確に分離されている現状では、ITM/ITS接続会議は非常に重要な位置づけになります。
また、あるソリューションを開発するために、複数のテクノロジーを組み合わせることが必要な場合、ITS内の会議も重要になります。例えば、新しい検索サービスを開発する場合、検索ワードや検索結果を画面に表示するUIが必要です。検索エンジンを開発するAP基盤やそれを実装するサーバが必要になります。さらに検索ロジックを考えるビッグデータのアナリストも必要です。
このようにいくつかのグループが協力しなければソリューションを実現できないときなど、効率的にソリューションを実現するためには密なコミュニケーションが不可欠です。
―― 一般的に業務部門と情報システム部門は仲が悪いといわれています。ITMとITSとの場合はどうですか。2つの組織をうまく連携していく秘訣があるのでしょうか。
米谷 成功体験と失敗体験を全員で共有しているほか、ボードメンバーが同時多発的に啓蒙したりもします。例えば、ITMの会議では、ITSの協力が必要ということを伝え、ITSの会議では、ITMの課題を解決し、要望を実現するために一緒にやっていかなければならないということを同時に話します。さらに社員全体が集まるような場でも、CEOからITSとITMの関係強化の必要性をメッセージしています。
2〜3年前はうまくいっていない時代もありました。そのときには、極端に言えば「いいソリューションなのだから黙って使え」といったアプローチでした。事業のコンディションやネットへの適応具合、技術の進化など、どれも差があります。業務に差があるときに、「黙って使え」というアプローチでは、うまくいかないという失敗体験を積み改めたのが現状です。
また、われわれが全社最適や標準化にこだわりすぎていた面もあったので「アジャストメント」という考え方も取り入れています。本当に、ほんの少し変更するだけで、サービスや商品への適合度合いが大幅に向上します。これにより、業務側も導入しやすくなります。
実際私自身、標準化の権化でした(笑)。そのスタンスを見直しているということにもなります。ただし個別最適を進めると、どんどん効率が悪くなるので、それもやり過ぎてはいけません。何ごともバランスが重要なのです。
―― CIOであれば、経営層の一翼として業績にも責任を持つということがイメージできますが、CTOはビジネス上の成果にどのように関わっていくのでしょう。
米谷 結果的にですが、CTOという役割であっても、ビジネスの成果そのものにコミットしているといっても過言ではありません。例えば、ゼクシィは、まだ紙の広告が必要とされている媒体で、それほどネットにシフトしていません。一方、リクナビは、以前は百科事典のセットのような分量の情報誌でしたが、現在では完全にネットにシフトしています。つまりリクナビは今やシステムが商品そのものなので、遅延や停止は許されず、おのずとビジネスにも責任を負うことになるからです。
新しい使い方やテクノロジーが次々開発されているスマートデバイスの場合は、商品やサービスの要求に合わせて適用する必要があります。品質はそれほど高くなくてもいいが、競合対策でスピード重視というものもあれば、品質で勝負したいというものもあります。短納期で開発したい場合にはアジャイル開発。納期は長くても多機能、高品質にしたい場合には大規模システム開発を活用します。
ソリューションに応じて、テクノロジーをうまく使い分けることで、開発のスピードが上がり、投資コストが効率化されビジネスが成功する可能性を高めています。そういった意味でもCTOの役割はビジネスの成功に大きく関わっているのです。
―― ソフトウェア開発における品質については、どのようにお考えでしょうか。
米谷 QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の優先順位が、サービスや商品によって変化するので、これを明確にすることが重要です。同じインフラでも品質重視のものもあれば、コスト重視のものもあります。
われわれが提供するサービスは、利用料金や広告料金をもらっているものがあり、個人情報を取り扱っているので基本的に品質を下げることはできません。例えば、会社説明会のサイトにバグがあると学生が登録できなくなるなど非常に大きな問題になります。現状では、納期とコストのバランスは調整しますが、品質を下げることは選択肢にありません。
以前は、品質を向上して開発期間とコストも削減したいという要望が多くありました。しかし、こうした要求ばかり高いプロジェクトはかなりの確率で失敗します。この失敗を共有することで、現在では同じ失敗を繰り返さない体制が確立されています。また、大規模開発の場合は標準でしきい値が決まっており、品質を管理するチームが無条件でチェックする体制を確立しています。
取材にあたり、国立大学法人 静岡大学 大学院情報学研究科 準教授博士の森崎修司氏に協力を得た。森崎氏が委員長を務めるソフトウェア品質シンポジウム 委員会では、9月12日、13日「ソフトウェア品質シンポジウム2013」を開催する。特別講演には米谷CTOが「進化するIT組織と開発スキーム〜リクルートのサービス開発の事例紹介とともに〜」をテーマに登壇し、より詳しい話を聞くことができる。
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