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人口高齢化の企業経営への示唆視点(2/3 ページ)

人口の高齢化を「脅威」ではなく「機会」と捉え、いかに競合他社に対して先んずるか。これが今後企業に求められていく。

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Roland Berger

課題1:高齢従業員の離職に伴う経営資源の流出

 高齢化がもたらす課題としてこれまで最も議論がされてきたのは、定年退職者の増加に伴う経営資源の流出であろう。退職一時金の増加等に伴うキャッシュの流出も準備が必要な課題ではあるが、より全社を巻き込んだ問題意識の共有・対応が必要な課題は、ベテラン社員が持っているナレッジの流出である。ものづくりの現場における「職人芸」や営業現場における個々の顧客の定性的な情報など、見えざる資産として企業の競争力に貢献しているナレッジは事欠かない。

課題2:従業員の高齢化に伴う生産性・変化への対応力低下

 年齢が上がると共に、従業員の生産性は上がるのであろうか、それとも下がるのであろうか。これは、感覚的にはわかりにくい問いではないだろうか。年齢が上がるにつれ、経験の蓄積が生産性向上につながる、といった期待ができる一方、体力の低下や記憶力の低下が生産性を下げる要因になると考えることもできる。

 この点については、労働経済学や社会心理学の領域で多くの実証研究が行われている。分析結果は多くの場合共通しており、業界によって違いがあるものの、35〜54歳程度まで生産性が上昇した後に、特に50歳以降生産性が低下することが報告されている。

 こうした生産性の低下は、年齢の上昇に伴う認知能力の低下に起因している。従って、高度な問題解決や新しい情報の吸収が必要な職種では、生産性の低下インパクトが特に大きいことが想定される。つまり、人口の高齢化に伴い従業員に占める50歳台以上の従業員比率が増すことによって、企業全体の生産性が低下してしまう可能性が高く、特に外的環境変化への対応力が低下してしまうことが予想されるのである。

課題3:若年層の減少に伴う人材獲得競争の激化

 高齢化の文脈で議論させることは少ないものの、採用プールにおける若年層の減少も、大きな課題を企業に投げかけている。パイの減少に伴い、企業による優秀な人材の確保は、今後ますます難しくなっていくことが想定される。上記のように、定年退職社員の増加に伴う課題に加えて、既存社員の高齢化に伴う生産性・変化への対応力の低下、それを埋め合わせるはずの優秀な若手人材獲得の困難化といった課題が、高齢化社会の企業を待ち受けているのである。

3.企業に求められる姿勢・取り組み

 それでは、上記のような課題に対して、企業に何が求められているのか、議論していきたい。ここで重要なことは、本稿冒頭で述べたように、単なる対処策(「守り」)に留まらず、どのように競争優位を築いていくのか(「攻め」)という視点を持つことである。

まずは経営陣の「高齢社員観」を変えること

 「守り」だけでなく、「攻め」の取り組みを導入していくためには、まず経営陣自身の「高齢社員観」を変えることが必須である。

 これまでの多くの議論では、知らず知らずのうちに、高齢社員を企業にとっての「負担」と認識することが一般的だったように思われる。高齢社員は負担ではあるが、年金支給開始年齢の引き上げに対応するために65歳まで雇用を維持しなければならない、といった具合である。一方、今後は、高齢社員を競争優位を築くための「アセット」と認識することが必要だ。高齢社員の存在、その強みをいかに競争力につなげていくか。これが、高齢化社会で企業に突きつけられている最大の論点であり、経営者は真正面からこの問いに向き合わなければならない。

鍵となるナレッジの流出を阻止する

 高齢社員の退職に伴うナレッジの流出に対しては、早くから注目が集まったこともあり製造業を中心にすでに対応が進んでいる企業も多い。取り組みとしては、まず、「クリティカル・ナレッジ」、特に「クリティカル・アット・リスク・ナレッジ」を定義することから始めなくてはならない。ここでは、事業遂行上重要なナレッジを「クリティカル・ナレッジ」、そのうち、人材と共に流出するリスクが高いものを「クリティカル・アット・リスク・ナレッジ 」と呼んでいる。こうしたナレッジを特定し「見える化」することは容易ではないが、日常業務のつぶさな観察やキーパーソンへのインタビュー等を通じて把握していくことは可能である。また、同時に、誰がそのナレッジを保有しているかを把握しなければならない。

 こうして定義した「クリティカル・ナレッジ」を対象に、流出防止のための施策を設計する。具体的には、文書化により暗黙知を形式知化したり、特に製造業では、OJTを通じた「技能の伝承」を仕組み化しようとする企業が多い。例えばトヨタでは、「専門技能修得制度」の中で、鋳造、鍛造、熱処理、機械、プレス、塗装などの職種ごとに技能を特定し、経験年数に応じた技能習得基準を設け、それに向けた技術職の努力を促している。また、ビジュアルマニュアルによる技能の「見える化」への取組みも進んでおり、数千のコンテンツを揃えている。

 実際に取り組むに当たっては、ナレッジの流出を食い止めるという「守り」の視点と同時に、より効率的・効果的な知見共有を通じて組織全体の学習能力を高めていく、「攻め」の視点が重要となる。

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