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持てる力を現地で立証することで先進国市場を攻略 日立鉄道事業海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(1/2 ページ)

グローバル化、海外進出というと成長性の高い新興国に目が向きがちである。しかし、現存するマーケット規模から考えると、先進国をターゲットとしてビジネスを展開することも1つの重要なオプションとなる。

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 日立製作所は、2012年7月英国の都市間高速鉄道車両置き換え計画(IEP:Intercity Express Programme)事業で車両270両を追加受注した。この結果、IEPにおける日立の総受注額は約8800億円となった。日立が、英国鉄道市場に進出してから15年、初受注から10年の快挙と言える。日立の鉄道事業が英国に進出した1999年には、その海外売上高比率は1%に過ぎなかった。しかし、2012年度には26%を達成し、15年度には60%、16年度には65%という目標を掲げている。独シーメンス、仏アルストム、加ボンバルディアというグローバル3強の寡占であった英国鉄道市場において、日立はいかにしてこのような成功を収め、今後の高い目標を設定しているのであろうか?

先進国をターゲットに海外に進出することの意味と難しさ

 日立鉄道事業の海外進出は、先進国市場攻略の1つの成功モデルを示したという意味で、その意義が大きいと言える。多くの日本企業が、海外進出を検討する際に今後の成長性を考えて新興国をターゲットとするが、既存マーケットの規模から考えると先進国も重要なターゲットとなるのである。先進国市場では、マーケットが製品やサービスを熟知しており、新たなビジネスを創り上げる時に必要な「教育」コストを抑えることができる。但し、既存プレーヤーに対して明確に差異化できるポイント、「強み」を持っていなければならない。「超」成熟といわれる日本市場に90年代の半ばに進出したスターバックス、2000年以降のイケアやH&Mといった企業の成功は、この好例と言える。逆もしかりで、昨年のコラムで取り上げたニトリやダイソー、良品計画などの米国進出も、同様の考え方に基づく戦略と言えるだろう。

 1990年代後半の日本の鉄道車両業界は、市場の成熟に伴い非常に厳しい状況にあった。そのような状況下で、グローバルレベルで4割以上の規模を占める欧州市場に日立は目を向けたのである。その中でも、国内に鉄道車両メーカーが存在せず、民営化後に鉄道事故が多発し、日本鉄道業界の安全性や正確性の高さに英国政府、鉄道業界が着目するという追い風が吹いていたことも背中を押し、日立は英国市場をターゲットにした。日本での厳しい競争下で磨き上げた経済性、安全性、快適性などに秀でたアルミ合金製次世代車両システムである「A-Train(AはAdvanced、Amenity、Ability、Aluminumの意)」を武器に、競争力のある価格を提示できれば参入可能との読みがあったようである。しかしながら、グローバル3強が支配する市場への参入は容易ではなく、日立は2回に渡り大きな入札案件で失注することになる。

現地での技術力の証明とビジネスを推進するための現地化の実行

 進出から3年、相応の投資にも関わらず結果が伴わなかったのだから、この時点で参入を諦めるというオプションもあったが、日立は2度の失敗から得た教訓を元に戦略を変更して辛抱強くビジネスを継続した。その変更の重要なポイントは以下の2点にあったと言えるだろう。

 第1のポイントは、日立の持つ技術力の現地での証明である。英国の鉄道の歴史は日本よりずっと古く、インフラが日本とは異なる。日立の実績は日本の新しいインフラでのものであり、英国では日立の車両は「ペーパートレイン」と揶揄されていた。注)そこで、英国で使い古された車両に日立製のインバータ駆動装置を始めとする主回路機器を組み込み、「V-Train(VはVerification、Victoryの意)」と称して2002年より2年半に渡り実装試験を行った。

 V-Trainは、英国の異なる鉄道インフラで無事故・無故障で走行し、日立製車両の品質と安全性を立証することになり、2004年のClass395と呼ばれる案件の初受注に大きく貢献するのである。更に、このClass395は2009年の営業開始後に日立の技術力の高さを証明するという好循環を生んでいる。2009年、10年に欧州が大雪に見舞われた際、ユーロスターを始めとする他社の車両は運行停止となったが、Class395は運行を継続し、運行停止となった車両の救援にも使用されたのである。

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