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「本社が持つべきケイパビリティ」の提言――欧州企業の調査を踏まえて視点(2/3 ページ)

本社業務に従事する従業員数は、10年前の約2倍の水準となっており規模は年々拡大している。さらに今後本社業務の増加及び多様化が進展すると考えられる。今後本社が持つべきケイパビリティとは? 事例からベストプラクティスを探る。

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3.企業側に求められる取組みの変化

 企業は、上記で述べたマーケット動向の変化を背景に、様々な取組みを実践していることが垣間見られる。この点について、先に述べた調査結果に基づき、マーケットの地域的な広がり及び産業のコンバージェンス化/クロスオーバー化による企業の取組み変化に焦点を当てて見ていきたい。

3.1 マーケットの地域的な広がりに対応すべくグローバル拠点/人材を拡充

 調査対象の企業では、マーケットの地域的な広がりに対応するため、新興国での販売市場・生産拠点の拡大及びクロスボーダー案件の増加、グローバル人材の増加を取組みの一つとして進めている。


図4:企業の国際化の動向

 新興国へ生産・販売拠点の拡大に関して、対象企業では調査実施時点で販売の80%以上、生産の60%を欧州で行っているものの、2020年には、販売・生産ともにアジア太平洋、アフリカ、南米に拡大すると回答している。

 また、図4は国際化の推進手法についてであるが、図に示してある通り、調査対象企業では、新興国における有力企業とのパートナーシップ締結などのクロスボーダー案件を増やすとともに、市場のグローバル化に対応するための一環として、従業員・役員の国籍の多様化を進めることを掲げている。

3.2 産業のコンバージェンス化/クロスオーバー化に向けて事業部/子会社間の連携を伸張


図5:事業部地域拠点間の連携の動向

 先に述べたように、マーケット動向の変化の一要素として、産業のコンバージェンス化/クロスオーバー化が今後一層進展すると見込まれる。この変化に対応する企業の取組みとして、事業部/子会社を跨いだ連携の拡大が進んでいる。

 図5が示しているように、事業部/地域間など、既存の組織間での連携を重要と認識している企業は9割とほぼ全てであり、その理由として部門を越えた仕事/プロジェクトの増加や事業活動の国際化に対応するためであると回答していることからも、産業のコンバージェンス化/クロスオーバー化に向けて、事業部/子会社間の連携は今後一層拡大していくと考えられる。

3.3 本社の役割変化 −バリューアップサポートへの注力

 上記で述べた企業の取組みの変化を踏まえた場合、本社と事業部/子会社/地域拠点との連携が今まで以上に必要とされるようになっていくと考えられる。グローバル拠点/人材の増加の影響として、生産/在庫数量の管理や多国籍従業員に対する教育や、産業のコンバージェンス化/クロスオーバー化の影響として、モニタリング制度、評価制度の構築を含めた事業部/子会社間での連携活性化策など、本社が事業部/子会社/地域拠点と連携しながら行う業務の増加が想定されるためである。

 実際に、対象企業によると、今後役割が増加する本社の業務は、事業部への知見の共有、アドバイスの提供などのバリューアップサポートや、事業部を跨いだ不要業務の削減という組織の効率化と回答されている。従って、企業全体にとって、本社と事業部/子会社/地域拠点との連携を円滑にする仕組みの整備

が必要となってきていると考えられる。

4.今後、本社が持つべき「5つのケイパビリティ」

 ここまで、マーケット動向の変化に伴う企業の取組みについて述べてきたが、ここからはこれらを踏まえて、本社が持つべきケイパビリティに関しての5つの提言をしたい。

 但し、本社が持つべきケイパビリティを提言する前に注意しなければならないことがある。それは本社機能の立ち位置である。本社は企業全体として見た場合、コストセンターとして捉えられるため、会社経営を行う上で、過度な本社拡大は会社全体の経費増加につながり、原則的には回避すべきものである。一方で、先でも述べたように、本社業務の増加を背景に本社規模の拡大が想定されていることから、コスト削減についても一部で触れつつ述べていきたい。


図6:本社の業務の変化

4.1 本社と事業部/子会社間の戦略アラインメントの更なる強化

 企業が有する事業部/子会社の数の増加に伴い、事業部/子会社に対するマネジメントが不十分になりがちとなり、各事業部/子会社が有する戦略の方向性が多岐に分散することが想定される。同時に、事業部の規模も全社に影響を与えるほどに肥大化していた場合、戦略の方向性が多岐に分散した際の全社戦略への影響が大きくなることが想定されるため、全社戦略と事業部/子会社の戦略の方向性を揃えることが一層必要であると考えられる。

 例えば、ベルギーの酒類メーカーのInbevでは、本社と事業部/子会社間の戦略アラインメントの更なる強化策として、事業部/子会社が行うブランド構築や製品改良・製品販売等のマネジメントプロセスを本社が統一化している。更には、各地域でのブランドポートフォリオ構築や、顧客マーケティング戦略の立案・実施、商品改良・新規開発・販売における各段階での行動の方向性を、本社が23個のプロセスに細分化し、各事業部/子会社に示している。(図7)


図7:Inbevのブランドマネジメントプロセス

 これに加え、本社は各プロセスにおける事業部のブランドマネジメント活動実施状況をモニタリングするとともに、各事業部がプロセスに沿った行動をしているかについて評価を行い、評価を元にインセンティブの付与を行うといった一連の制度の構築をすることで、戦略アラインメントの管理を実施している。

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