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「道具」で光る、「道具」を光らせる海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(1/2 ページ)

世界の製造業を支える日本のグローバル・ニッチ・メーカーのイノベーション力とは。

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 日本の製造業の競争力低下が叫ばれて久しい。例えば家電製品や、パソコン、モバイルなどの分野では、海外勢にシェアを奪われ、この数年輸出量が大きく低下している。消費者の目に見えやすく、かつコモディティ化しやすい「最終製品」の分野において、日本のメーカーは軒並み苦戦を強いられている。

 一方、世界の製造業の業界構造を少し違った角度から見てみると、異なる風景が見えてくる。例えば、世界最大のEMS(電子機器受託生産サービス)企業である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、「日本製の生産設備を使っている」ことをアピールポイントの一つにしている(注1)。同社の世界最大の金型製造拠点には「日本製の高精度工作機械がずらりと並んでいる」という(注2)。

 また、この企業が受託生産しているiPhoneの部品の50%以上は日本製である。高品質・で高付加価値を追求する日本メーカーの要求に応え続け、その技術力を磨き上げてきた日本の生産設備メーカー、部品メーカーは、日本企業ばかりでなく、多くの海外メーカーも下支えしているのである。その技術力は卓越したものがあり、海外企業が容易には模倣できない付加価値を提供している。本コラムでは、このようなニッチではあるがグローバルレベルで競争優位を築き上げている企業を、次の2つの視点で考察する。

  • 「道具」で光る:製品を生産する設備を磨き上げている企業
  • 「道具」を光らせる:販売する製品に加えて、製品を利用する顧客の生産プロセスの改善にまで踏み込むサービスを提供している企業

「道具」で光る――縁の下に競争力の源泉を創り出す

 マブチモーターは、小型直流モーターのグローバル市場で50%強のシェアを持つリーディングカンパニーであり、しかも世界トップシェアを数十年に渡って維持し続けている。この要因は、早くから小型モーターというニッチな分野に事業ドメインを絞り込み、当初は玩具に過ぎなかった用途市場を、音響・映像、自動車、家電、事務機器などに幅広く拡張してきたことにある。しかし、それだけではなく、モーターを製造する設備も自社生産し、設備を刷新し続ける体制とノウハウを備えていることも、同社の高い競争力を支える要因なのである。

 マブチモーターは、日本には本社と研究所しか置かず、生産拠点は100%海外にある。同社はモーターそのものだけでなく、その生産に必要な生産技術、および生産設備まで自ら作り上げ、これを世界の工場に展開することで非常に高い生産性を実現してきた。更に、現場では保全技術を脈々と伝承することにより、従業員を必要以上に増やさず生産を拡大している。

 海外の工場では、従業員が「1年で約1000台の設備をひたすら分解し、組み立てる」という教育を通じて生産設備の特徴を理解すると同時に、不具合が生じた場合には自前でメンテナンスすることで生産性を高めているのである。教育に際しては、日本人社員が海外社員を教育するだけでなく、最近では海外の社員間で教育し合うようになり、ベトナム人への技術伝承の講師を中国人社員が務めることもあるという(注3)。製品そのものの技術力の高さもさることながら、その製造設備の刷新力と技術伝承力によって、グローバルレベルの成長力を実現しているのである。

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