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「んっんっんっんっ、おぬしも悪よのう」──悪代官でボイストレーニングITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

よい声の人は信頼できそうで、話の中身にまで興味がわくのではないだろうか。では、よい声とはどのようなものなのか。

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 アイティメディアが開催している「ITmediaエグゼクティブ勉強会」にボイストレーナーで合唱指導者、ピアニストでもある永井千佳氏が登場。著書のタイトルでもある「リーダーは低い声で話せ 〜信頼感、交渉力、説得力を高めるビジネス・ボイストレーニング」をテーマに、実際に来場者とボイストレーニングを行いながら、低い声で話す意味について講演した。

潜在意識の恐怖が人の可能性を制限する


永井千佳氏

 断崖絶壁に取り付けられた30センチ程度の幅の橋を渡るのは多くの人が恐怖に思うだろう。しかし同じ幅の橋が床の上に敷いてあったらどうだろう。まったく恐怖を感じることなく、走って渡れるのではないだろうか。このように潜在意識の恐怖は、人の可能性を制限してしまう。

 「人前で話すことも同じである」と永井氏は話す。永井氏も以前は「あがり症」で、人前で講演をするとき、頭の中が真っ白になっていたという。それがトラウマとなり、その後、人前で話をするのが怖くなっていた。それでは、なぜ人前で話ができるようになったのか。「ボイストレーニングにより変身したから」と永井氏は言う。

 「人生、こんなこともある。人前で話すことを徹底的にいやがっていた私が、あるときどうしても人前でプレゼンテーションをしなければならなくなった。火事場の馬鹿力というものはあるものだ。偶然に説得力のある声が出てしまった。それはまるでスイッチが入るように出た。まったく違う自分を発見した感じである」(永井氏)。

 これは特別なことではなく、1日5分のトレーニングで、誰でも発見することができるという。ボイストレーニングといえば、「腹式呼吸」「腹筋」「滑舌」を思い浮かべるのではないだろうか。しかし永井氏は、「腹式呼吸を1度もやったことがない。腹筋を鍛えても声はよくならなかった」と話す。

 「腹筋を鍛えると逆に力んで発声するクセがつき、力みをなくすのにかえって時間を要してしまった。滑舌についても、早口言葉を練習したことは1度もない。ビジネスパーソンに必要な、低くて、よく通る声、よい声というのは、横隔膜を鍛えるという1点でしか得ることができない」(永井氏)。

 横隔膜を鍛えると聞くと、難しそうに思うかもしれないが、それほど難しいことではないという。永井氏は、「マヨネーズのボトルを絞ると中身が出る。このときのボトルを絞る手が横隔膜であり、マヨネーズが声である。これを"マヨネーズ理論"と呼んでいる。複雑なトレーニングはまったく必要ない」と笑う。

横隔膜のスイッチを入れて声を出す

 横隔膜とはどこにあるのだろうか。横隔膜は、肺の下にあるドーム型の筋肉である。呼吸をつかさどる筋肉で、呼吸でしか鍛えられないという。この横隔膜を意識するだけで、まるでスイッチが入ったように声が出るようになる。永井氏は、これを「横隔膜のスイッチ」と呼んでいる。

 「アナウンス教室に通わなければならないと思っている人もいるが、アナウンス教室に通う必要はない。アナウンサーは、事実をいかに正確に伝えるかが仕事である。ビジネスパーソンは、ビジョンを語り、夢や信念を伝え、社員にいかにやる気になってもらうかが仕事である。声を発する目的が、まったく違っている」(永井氏)

 しかし正しいトレーニングをしないと、声が甲高くなり、早口になり、つっかかるし、滑舌が悪くなる。また「あー」「えー」が多くなり、声が裏返ってしまう。永井氏は、「営業担当の人から、お客さまの前に出ると声が裏返ってしまって困るという相談を受けることが多い。これは緊張しているから声が裏返るのではない」と言う。

 「専門的に言えば、声には裏返るポイントがある。ソプラノやテノールのような高い声の少し手前の高さの声は99%の人がつっかかって裏返る。そこで声を低くすれば、声がつっかかることも、裏返ることもなく、問題はすぐに解決される」(永井氏)

 それでは、トレーニングをしている人としていない人が、人に与える印象がどのように違うのだろうか。例えば、ビデオで撮影した自分の話す姿を見て、こんなに甲高い声だったのかとか、こんなに落ち着きがないのかとか、こんなにか細い声だったのかなど、ショックを受けたことはないだろうか。これは他人が見ている自分の本当の姿である。

 永井氏は、「声が高く、早口だった経営者が、ボイストレーニングを受けて、低い声になったおかげで、社内がまとまり、業績が回復した。上司に企画書を見てもらえなかった声の高い女性が、低い声で話すと一発で見てもらえるようになった。"もて声"になったと喜ばれることが多い」と話している。

安易にまねてはいけない例外もある

 よい声の人は信頼できそうな気がして、その後で話の中身にまで興味がわくのではないだろうか。それでは、よい声とはどのようなものなのか。ドスのきいた声なのか、あるいはオペラ歌手のような声なのか。永井氏は、「一番人気があるのが"福山雅治"の声である」と言う。

 福山氏は、力強く鍛えられた低音と、自信満々の話し方が魅力であり、人を引きつける力がある。また、いまもっとも話題の俳優である「阿部寛」も同様だ。阿部氏は、当初は演技に苦労していたが、「つかこうへい」に出会ったことで開眼し、現在は「蜷川幸雄」の舞台でシェークスピアを演じられる格調高い演技力も身につけている。

 女性では「天海祐希」である。天海氏は、常に理想の上司のナンバーワンに選ばれる。そして「小宮悦子」。小宮氏は、いまや低い声のアナウンサーとして有名だが、元々は甲高い声だった。しかし「久米宏」に説得力のあるニュースを読むためには声を低くするようにとアドバイスされ、現在に至っている。

 一方、元内閣総理大臣の「田中角栄」やジャパネット高田の社長である「高田明」はどうだろう。永井氏は、「"田中元総理や高田社長は、優れたリーダーではあるが、声はよくないのではないか"とよく聞かれる。これはモーツアルトが、なぜ努力に関係なく名作を生み出すことができたのかと同じこと。要は何ごとにも例外がある」と話す。

 「田中元総理や高田社長は、安易にまねをしてはいけない例外なのである。娘の"田中真紀子"は、父親とまったく同じしゃべり方をまねしてしまったために成功できなかった。また高田社長の甲高い声は、テレビショッピング用の声である。普段は、物静かな話し方をする人である」(永井氏)

 永井氏は、「現在の内閣総理大臣である"安倍晋三"もその1人。安倍総理は、2回目の総理大臣になった現在、声を低く変えている。ボイストレーニングを受けているが、これがアベノミクスの成功に功を奏しているのではないか。阿倍総理は、あともう少し声を低くすれば、さらに成功できるのでは」と話している。

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