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時代の変化を見越し、進化し続ける企業の組織の在り方に迫る気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

すべてをルール化して縛ってはいけない。ガチガチなルールにはめて金太郎飴状態では、新しいものを生みだすことはできない。

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 情報通信業界の法人向け営業代理店から、グローバルWiFi(R)の事業へと大きく舵を切ったビジョン。地域も全世界に拡大し、約200カ国へサービス提供している。いち早く時代を先駆ける事業を手掛け、先見の明のある代表取締役の佐野健一氏に、営業会社からグローバル通信会社へと進化しようとしている企業のマネジメントについて聞いた。

通信の販売代理店から、世界の通信会社へ

中土井:ビジョンの事業について聞かせてください。


佐野健一氏

佐野:これまではBtoBの事業を中心に展開していたので、われわれの会社を知らない人もたくさんいると思います。ビジョンは、ソフトバンクの携帯電話や固定回線、コピー機等を法人向けに営業を行う、扱い日本一の通信の代理店です。コールセンターとウェブで集客しながら、直接訪問するセールス部隊も持っており、顧客のニーズに合わせながら、獲得するスタイルで営業をしてきました。

 今は大きく舵を切って、グローバルWiFi (R)の事業を主軸に育てていっています。世界中で安心して安く速くインターネットが使えるサービスですので、法人だけでなく、個人の渡航者にも利用してもらっています。新しく「グローバル通信キャリア」という立ち位置を確立しようと、現在世界7カ国に拠点を構え、30カ所にパートナーを置いています。全く新しいかたちのグローバルな通信会社を目指しています。

中土井:国籍問わずに社員を雇っているそうですね。

佐野:創業時、最初に採用した社員は、ブラジル人でした。雇った当時は、やはりカルチャーショックを受けました。ブラジル人と日本人の価値観の違いに驚き、それまでは気付くことのなかった日本人の特性にも気付かされました。文化、教育環境、安全性、家族に対する価値観も日本人とは大きく違っていました。当時雇ったブラジル人の女性たちは、家族のためにすごく頑張っていたのが印象に残っています。

 会社を始めたころから世界一を目指すことは頭の中にあって、社員にも目標として掲げて、唱和してもらっていました。しかし、もともとは何かの事業を軸にして世界一になるというものがあったわけではありません。でも、それを掲げながら、前進し続けた結果、通信サービスの販売業で日本一となり、そしてグローバルWiFi (R)事業にたどり着きました。外国人の社員を雇い、多様な国籍の社員がいる会社にしていくことで、「世界一」を目標にすることの意味に重みが出てきました。

 昔は社員も「やるんだったら世界一がいいよね」くらいにしか考えていなかったと思います。文化や価値観の違いはありますが、外国人でも日本人でも、一緒にやれる志があればそれでいいと感じています。

未来だけを掲げるのではなく、過去も見る

中土井:営業会社にありがちな豪快な売上目標だけを掲げて追い込むようなやり方ではなく、個人のスキルを数値化したりしてきめ細やかなマネジメントをしているようですね。

佐野:会社を作った当時と今では、社内の制度はかなり違うと思います。どんどん制度をバージョンアップしています。数値の「見える化」はもちろん進めていますが、すべてをルール化して縛ってはいけないと思っています。ある意味逆説的ではありますが、どこかにファジーなものを残しておかないと、何か新しいものを生み出す余地がなくなってしまい、金太郎飴のような状態に陥ってしまいます。

 ガチガチなルールにはめて金太郎飴状態に陥っていくというのは、日本において中間層が増えていく構造と似ていると私は感じています。世界各国を見たときに、中間層が増え続けていくような国はほとんどなくて、一獲千金を目指して突き抜けていく人たちと取り残されていく人とたちで二極化していくのが一般的ではないかと思います。日本のように中間層になりたいなんて考える人の方が極めて少数派なんだろうなと。

 そうした「這い上がろう」という意欲が継続的に生まれるようにするためには、制度化されているようでされていなくて、されていないようでされているという絶妙なバランスが重要なのではないでしょうか。

中土井:起業する前、光通信のトップ営業マンだった時代からマネジメントに携わり、23歳の時には部下を800人抱えていたそうですが、過去と現在ではマネジメントの方法は変わりましたか。

佐野:マネジメントのスタイルは大きく変わりました。大きな要因はIT環境が進化したことにあります。社内SNSなどを使うことでリアルタイムにコミュニケーションが取れるようになったのは言うまでもありません。それに加えて、昔は情報量が少なくミドルマネージャがアクセスできる情報に限りがあったこともあり、ミドルマネジメント層の目標に対する姿勢はこうあるべきだ、というスタンスは強くありました。そうしなければ、伝達しなかったですから。そして、目標に対する姿勢を強く打ち出したとしても、ミドルマネージャが持っている情報量が少なかった分、彼ら自身が創意工夫をせざるを得なくて、結果的にイノベーションが起きていたように思います。

 しかし、今となっては、情報量が増え、ミドルマネージャが見ている資料が同じだったりするので、「こうあるべきだ」と打ち出しすぎるとたぶん新しいイノベーションは起きないような気がします。なので、今は情報に対して「こういう角度で切ってみたら何が見えてくるだろうか?」といったことを自ら考えてもらうように彼らには求めています。また、未来だけを見ることを強いるようなこともしていません。未来だけを見るようにすると、漠然としているうえに、目標だけが高く見えてしまって、数値を見た瞬間にみんな「こんな目標は無理だ。要求が高すぎるよ」って諦めてしまいます。

 それはひいては保守的な目標設定を招きかねません。私は社員に対して「みんなに突き抜けてもらいたい、そのためには過去を見ることが大切だ」と言っています。なかには「前に進んでいるんだから、過去を見るな」という人もいるかと思います。しかし、私は顧客特性をはじめ、過去のデータをしっかりと分析し、パフォーマンスを発揮している人をしっかりと理解していくことを重要視しています。

 それがないと、結局「彼は、たぶん、営業トークがうまい」とか、「センスがある」っていうあいまいな分析に終わってしまいます。それだと他のメンバーは何回営業トークを練習しようとも、根本が変わっていないために結果は出ません。「過去を見る」軸を逆に押し付けていくことで、気づきを与えたいと思っています。最初は軸を押し付けることでみんなぐちゃぐちゃ言うんですけど、気づき始めると頭が勝手にぐるぐる回転し始めます。そうすると元々の軸の範囲を超えたものが生まれてきます。

特殊なマネジメント経験から学んだこと

中土井:20代に800人の部下を持ち、起業して最初に雇ったのはブラジル人という特殊なマネジメント経験の中で今の自分の組織マネジメントに影響を与えているエピソードはありますか?

佐野:そうですね。いくつかありますが、外国人の社員が頑張ってくれた後で、その産業がなくなっていくという経験は今の自分に大きく影響を与えているように思います。当時この事業領域の国際電話販売取次の産業は、特に在日南米人向けのサービスはなくなっていくだろうなという予測はありました。そして実際その料金の劇的な低減が起こっていき、またインターネットが登場してくるということでなくなっていきました。

 彼らは出稼ぎに来てある一定の賃金を稼いで仕送りをしながら、就労ビザが切れたら帰っていったので、産業が縮んでいきながらもなんとかタイミング的にはギリギリ間に合ったのですが、たまたまそれは一時期的にうまくいっているだけだったということを痛感いたしました。

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