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ビジネスエントロピーの脅威視点(1/3 ページ)

自然や社会を観察し、そこから得られた示唆を経営理論に応用するという考え方は汎用性が高い。ビジネスの世界をも支配する物理法則から、事業ライフサイクルを見極める。

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1、自然科学に学ぶ経営理論

 自然科学・社会学の理論を経営理論に活用するという取り組みは、特に目新しいことではない。

 有名なところでは、エベレット・ロジャースの「イノベーションの普及学」(注1)が挙げられる。新たな技術・製品あるいはライフスタイルといったイノベーションが、どのように社会に普及していくかについて調査・分析を行ったものであり、その後のプロダクトライフサイクルという考え方や、「キャズム」(注2)という概念に大きな影響を与えた。

 「利己的な遺伝子」(注3)という本をご存知であろうか。リチャード・ドーキンスというイギリスの生物学者の著した書籍で、場合によっては1993年に放映された「高校教師」というテレビドラマ(真田広之・桜井幸子主演) のなかで参照された本としてご存知かもしれない。この本の主張するところは、あらゆる生物は「生物機械」であり、その肉体そのものは、世代を超えて生き続ける「遺伝子」の乗り物に過ぎない、という説である。

 これを企業経営に置き換えてみると、会社の中で誰が働いているか、ということには然したる重要性はなく、その企業そのものが持つ遺伝子、すなわち企業文化がより重要である、ということであろうか。新入社員として、必ずしもその企業風土に染まっていない人材を採用したにもかかわらず、いつの間にかその文化に染まり、次世代にそれを伝えていく。まさに、企業文化という「利己的な遺伝子」が、世代を超えて生き続けていくことは、歴史ある企業においては納得感があるのではなかろうか。

 このように、自然や社会を観察し、そこから得られた示唆を経営理論に応用するという考え方は汎用性が高い。今回はその一つの例をご紹介したい。

 高校の物理で、エントロピーという概念を学んだ(あるいは遠い記憶の向こうに眠っている(?) 方も多いと思う。

 統計力学(熱学)における「状態の乱雑さ」およびその「不可逆性」に関する概念である。簡単に言えば、「やかんでお湯を沸かし(熱がやかんに集中している状態)、火を止めてそれを放っておくとだんだんとやかんのお湯は冷め、大気中に発散していく(集中していた熱が辺りに拡散した状態)」ということと、この現象は「必ずこの方向性で起こる(大気中の熱をやかんが吸収し、自然にお湯が沸くという方向性はありえない)」ということである。

 この「エントロピーの拡大」はあらゆる生活シーンで起きると言ってよい。例えば、散らかしっぱなしの部屋をせっかく整理しても、一週間もすれば、また散らかってしまう、ということは多くの皆さんが経験しているところかと思う。

 そして、経営の現場においてもエントロピーの拡大があらゆるところで見られるということをお伝えしたい。

 まず、概念の整理をしておきたい。

 エントロピーの拡大が見られるのは、主にマーケティング領域とオペレーション領域である。

 例えば、これまでになかったような新たなプロダクト(以降、製品・サービスをまとめてプロダクトと呼ぶ)が世の中に出てきたときのことを考えてみよう(ソニーのウォークマンやアップルのiPhoneがわかりやすい例であろう)。

 発売初期においては、一つの仕様、一つの価格で売り出される。しかしながら、競合が類似プロダクトを売り出したり、あるいはプロダクトのバリエーションが増えていったりということが起こる(iPhoneはiPhone4 までプロダクトバリエーションは皆無といってよかったが(色の違い程度)、5 になってから5s、 5cが併売された)。

 こうして時とともに多種多様なプロダクトが売り出されるようになることをプロダクトエントロピーの拡大と呼ぶ。


図A:顧客セグメントエントロピーの拡大

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