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日本発のグローバルブランドを増やそう視点(1/3 ページ)

日本発のブランドがグローバルで成功するために必要なポイントは3つ。戦い方、鮮度、そして組織。

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図A、図B

 去る10月、米インターブランド社より毎年恒例のグローバルブランドランキング2014 が発表された。このランキングは、グローバルな事業展開を行うブランドを対象に、そのブランドが持つ資産価値を金額に換算してランク付けするもので、ブランドエクイティベースの評価指標として様々なメディアで引用されている。

 今年日本からは、トヨタ(8位)、ホンダ(20位)、キヤノン(37位)、ソニー(52位)、日産(56位)、パナソニック(64位)、任天堂(100位) の7社がTOP100 にランクインしたが、ランクインしたブランド数を国別に並べたものが図Aである。ご覧の通り、社数ベースでは日本はアメリカ、ドイツに次ぐ3位であり、一見悪くない。一方で、図BにブランドあたりのGDP比較(GDPをランクインしたブランド数で割ったもの) をのせている。こちらで比較すると、スペイン、スウェーデン、オランダ、アメリカは値が低くなっており、すなわちその経済規模(GDP)に対して多くのグローバルブランドを効率的に生み出してることがわかる。一方で、日本は先進国の中ではイタリアについで高く、その経済規模に比して、グローバルブランドを生み出せていないことが伺える(なお、イタリアが高いのが意外と思われるかもしれないが、今年はフェラーリ、ランボルギーニ、FIATといった自動車ブランドが軒並みランク圏外に落ちてしまったことが要因だ)。

 また、経済規模だけでなく、文化的成熟度の観点から見ても日本は実力に比してグローバルでブランド力を持ててない。ファッション、食文化、コンテンツをはじめとして、多くのユニークなブランド、商材、歴史、伝統を擁し、経済産業省によるクールジャパン戦略のような政策的な後押しも受けているものの、そのグローバルブランド化はまだ道半ばだ。

 それでは、グローバルに通用するブランドを作るためには何が重要なポイントとなるのだろうか。その中で、日本企業に足りてないものは何か。以上のような問題意識の下、今回の「視点」では、日本発のグローバルブランドを作っていく上で抑えるべき3つのポイントをご説明したい。

1.ブランドの戦い方を明確化する

 ブランドとは、消費者が持つ価値イメージの集合体である。例えば、無印良品であれば「シンプル」、ルイ・ヴィトンであれば「ラグジュアリー」といった具合である。このようなイメージは、一朝一夕で形成されるものではなく、製品そのものの使用体験、プロモーション、店舗、口コミ等の様々な顧客接点を通じて、消費者の心の中に徐々に形成されていく。従って、明確なブランドイメージの確立には一定の時間を要するのが常だ。一方で、一旦イメージが確立されれば、競合に模倣されにくい強みとして強力な武器となる。前述した無印良品やルイ・ヴィトンだけでなく、優れたブランドは例外なく競合と比して明確なイメージを持っており、それが競争優位性の構築に繋がっている。これがブランドが無形資産、ブランドエクイティと言われる所以である。

 このようなイメージを消費者の心の中に構築するためには、ブランドは明確なコンセプトを持ち、それをあらゆる顧客接点を通じて一貫して訴求する戦略的なマーケティング活動を行わなければならないが、その際ブランドのタイプに応じて、“戦い方” を変えることが重要だ。ブランドのタイプは、一般的に大きくラグジュアリーブランド、プレミアムブランド、マスブランドの3つに分けることができる。経済・文化共に成熟している日本は、新興国との価格競争に陥りがちなマスブランドではなく、付加価値で勝負できるラグジュアリーかプレミアムで勝負すべきだが、経験的に多くの日本企業はラグジュアリーブランドとプレミアムブランドを混同しているケースが多い。

 プレミアムブランドとラグジュアリーブランドの根本的な違いは、ブランドの作り方にある。プレミアムブランドでは、基本的に従来のマーケティングの考え方、すなわちターゲッティングとポジショニングがブランド戦略の中心にある。ターゲッティングとは文字通り、どのような人々、セグメントに対して売るか、そして、ポジショニングとは競合に対してどのように差別化するかである。そのためのHow to が一般的に世の中で語られているマーケティング理論である。

 一方で、ラグジュアリーブランドは作り方が全く異なる。ブランドの根幹は、あくまでデザイナーやメゾンの世界観であり、極論を言えば顧客も競合もブランドの根っこの部分では意識していない。ラグジュアリーブランドの立上げにおいては、そのブランドでしか味わえないオンリーワンの世界観を築くこと、作り手の主観を徹底的に磨き上げることが何よりも重要である。この定義に基づけば、例えば、日本が誇るデザイナーズブランドの一つ、コム・デ・ギャルソンは立派なラグジュアリーブランドである(ここでは詳細には触れないが厳密には、アパレルのラグジュアリーブランドは、デザイナーの世界観が先行するデザイナーズラグジュアリー(例: ジャン・ポール・ゴルチェ) と、ブランドそのものの世界観やアイコンが先行しデザイナーの創作範囲を規定するメゾン型ラグジュアリー(例:エルメス)に分けられる。コム・デ・ギャルソンは前者である)。コム・デ・ギャルソンの顧客は、その世界観に惚れ込んで購入するのであり、そこには他ブランドとの相対的評価は入り込む余地は少ない。従って、多少の価格差で顧客が購入を悩むようなことは、一般的なブランドと比較すると遥かに少ない。

 実際、プライシングにおいてラグジュアリーブランドとプレミアムブランドでは取るべき戦略は全く異なる。ラグジュアリーブランドは、上記のように価格を決めるのはあくまで顧客であり、極論ブランドが提供する絶対的な価値や世界観に顧客が納得すれば、競合に関係なく価格はいくらでも売れる。例えば、スイスの高級機械式時計のオメガは過去10年間で一部のモデルの価格を2倍以上に引き上げたが、売上は落ちるどころか伸びている。一方で、プレミアムブランドは常に他のブランドとの相対感が重要となるので、プライシングにはより気を使わなくてはならない。品質、デザイン等様々な要素と競合製品との比較感を踏まえ、消費者に受け入れられかつ利益も十分に出る絶妙な価格設定を行う必要があるからだ。従って、プレミアムブランドは競合の値下げやファストファッションブランドによる模倣など、ベンチマークとなるブランドの価格戦略の影響を受けやすいという特徴を持つ。

 このようにブランドのタイプによる戦い方の定石の差異をきちんと理解したうえで、自社のブランド固有の勝ちパターンを構築することが、グローバルブランドとしての成功に向けた大前提となる。

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