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変わらない真心と、時代に合わせて変わり続けてきたお菓子――たねやのブランド力の秘密とは?経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(1/2 ページ)

140年以上の歴史をもつ老舗和菓子舗「たねや」。和菓子だけではなくバームクーヘンなどの洋菓子も人気を誇っている。縮小する菓子市場の中、売上げを伸ばしているその秘密は?

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 1872年に近江八幡で創業し、140年以上の歴史をもつ老舗和菓子舗「たねや」。和菓子だけではなくバームクーヘンなどの洋菓子も作り、買い求める人々が大行列をなすほどの人気を誇っている。そんなたねやグループを率いるのが、4代目社長の山本昌仁氏だ。縮小する菓子市場の中、売上げを伸ばしている。その秘密は、長年かけて築き上げてきたお客さまとの強固な信頼関係にあった。

誰がどんな思いを持って作っているのかが分かる商いをしなければいけない

井上 140年もの歴史があるたねやですが、これまでにどのような変遷をたどってきたのですか。


たねや 山本昌仁社長

山本 1872年に和菓子屋をはじめました。それまでは江戸時代から材木屋をしていました。その後、穀物や根菜類の種を扱うようになり、これが「たねや」という名前の由来になっています。材木屋がルーツですが、和菓子屋をしようと決めてからは、ぶれることなくお菓子屋の道を現在に至るまで貫いてきました。65年ほど前には和菓子だけではなく、洋菓子も作りはじめました。現在は全国に40店舗を構え、1800人のスタッフで商いをしています。

井上 1872年に創業されてから現在に至るまで、たねやは店舗数、社員数を増やし続けてきました。それは、お客さまからの信頼の証だと思います。たねやのブランド力の秘密はどこにあるのでしょうか。

山本 商品の後ろに、たねや独自のストーリーが感じられるからではないでしょうか。どんな人が、どのような考えを持って作っているのかといったストーリーにお客さまの共感が集まれば、ブランド力を高めることができます。値段をたたかれることもありません。たねやの栗饅頭の価格は150円です。一般的な平均価格は60円から80円だと思います。他店よりも値段が高い150円でも、私たちの栗饅頭が売れるのは、たねや独自のストーリーがあり、それが受け入れられているからなのです。いつの時代も、誰がどんな思いを持って作っているのかが分かる商いをしなければなりません。

お菓子屋としての役割をいつも心においておく

井上 お客さまとの信頼関係はたねやのどのような文化によって支えられているのでしょうか。

山本 お菓子屋としての役割は、とてもシンプルです。お菓子を食べてもらって、「おいしい」と言ってもらうことです。お客さまは、巧みな和菓子作りの技、大きくて立派な店舗、店舗数の多さを求めているわけではありません。それらを目指すような商いをしてはいけないのです。そのことをいつも忘れず、目の前のお客さまと真摯に向き合うことを大切にしてきたからこそ、たねやの信頼は築かれてきたのだと思います。

 お客さまと売り手という役割を超えたやり取りができるかどうかが大切なんです。ですから、売り場では「いらっしゃいませ」と言うなと伝えています。近江八幡にまで来てくださったお客さまに最初に掛けるべき言葉は「遠い中、ありがとうございます」ではないでしょうか。最初の声掛けが変わると、そのあとに続く会話も自ずと変わります。「最近暑くなりましたね」というような何気ない会話でも、自然なコミュニケーションが大切です。たねやとお客さまの信頼関係は、販売員が築き上げてきたものです。販売員自身が食べて思ったことを自分の言葉で伝えるよう言っています。それができて、お客さまに受け入れてもらえると、「あなたが言うなら間違いないね」と言っていただけるようになります。そういったお客さまと販売員一人ひとりの絆がたねやの財産なのです。

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