マイナンバー制度で問われているのは情報を守る価値観や新規事業の創造力:企業のトップが見据えるべきマイナンバーの「先」(3/3 ページ)
年金機構の情報流出事件でマイナンバー制度に対する国民の不信感も高まっているが、企業は粛々と制度対応を進めなければならないことに変わりはない。そこでは、企業として大切な利害関係者の情報をどう守るのか、その姿勢や価値観、さらには新たなビジネスを創造する力が問われていると言っていいだろう。
マイナンバーで新規ビジネス? 個人番号カードが「イノベーションの鍵」に
今年5月の政府・IT総合戦略本部マイナンバー等分科会で示された利活用のロードマップによれば、来年、つまり平成28年1月の制度開始から希望者に交付される「個人番号カード」は、新たな「イノベーションの鍵」と位置付けられている。
この個人番号カードには、マイナンバーや氏名、住所、生年月日、顔写真などはもちろん、インターネット上で本人確認できる公的個人認証の証明書もICに記録される。これまで公的個人認証サービスは、e-Taxなど行政機関の手続きに限られてきたが、民間にも開放され、より幅広い普及と利活用が期待されている。
現在では数日から数週間かかっている銀行口座の開設もオンラインで即時行えるようになるだろう。インターネットバンキングにおいても今はIDとパスワードを入力しているが、個人番号カードに格納された電子証明書を利用すれば、より確実な認証も行えるようになるだろう。
公的個人認証サービスが民間に広く開放されることで、これまで個別に発行されてきたさまざまなICカード、例えば、社員証から始まってキャッシュカード、クレジットカード、ポイントカード、診察券なども、個人番号カードに一本化されるとみられている。公的機関が発行する国民全員が取得できる唯一の「ICカード身分証明書」による、いわゆる「ワンカード化」の促進だ。
「厚生労働省は個人番号カードを健康保険証として利用できるよう準備を進めている。病院は健康保険資格情報をより確実に確認できるようになるし、薬局はお薬手帳として利用できるようになることも想定される。どのような情報をマイナンバーとひも付けていくか、しっかりとした議論が必要だが、例えば、個人の病歴や投薬歴などが確認できるような基盤が構築されれば、よりよい医療サービスが提供できるようになる。一本化で普及が促進される個人番号カードと公的な個人認証の仕組みをどう活用していくのか、今後、より多くのアイデアが出てくるに違いない」(錦織氏)
平成29年から個人が利用できるようになる情報提供等記録開示システム「マイナポータル」では、社会保障や税の手続きが簡素化できるほか、将来は電気、ガス、水道などの公益企業や、金融機関などの民間企業に住所変更を一斉に伝えられるワンストップ機能を盛り込むことも検討されているという。
これまで日本企業は、個人を特定する情報がありそうでない状態で何とかしてきた。公的個人認証サービスが利用できるマイナンバーでもっと効率化できるだろうし、情報システムも簡素化できるだろう。政府は2020年の東京オリンピックに向け、「世界最高水準のIT国家」を目指している。ワンカード化の先には、生体情報をあらかじめ登録しておくことで、生体認証によって競技場に入場できるシステムの構想もあるという。企業も知恵の出しどころだ。
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