残された人の思いをかたちにする、これまでにない葬儀の在り方とは:経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(1/2 ページ)
お葬式を葬儀社から家族のもとへ返したい。家族や周りの人が故人のために何かしてあげたいという思いを手伝うのが役割。
首都圏を中心に葬儀事業を展開するアーバンフューネスコーポレーションは、故人一人ひとりに合わせたその人らしい葬儀をプロデュースしている。オーダーメイドの葬儀によって、遺族や参列者の感動を呼び、その満足度の高さから、成長している。代表の中川貴之氏が目指すこれからの葬儀の在り方とはどのようなものだろうか。
「その人らしさ」実現する葬儀をプロデュース
井上 アーバンフューネスコーポレーションの葬儀事業の特色を教えてください。
中川 「100人いれば、100通りのお別れ」をコンセプトにしています。これまでの葬儀の在り方とは異なる「その人らしさ」を大切にしているのが特徴です。
井上 どういった思いから、一人ひとりに合わせたお葬式の事業を始めたのですか。
中川 20代後半の頃、友人のお父さんの葬儀に参列したことがありました。葬儀では、亡くなった方を直接知らない方も多く参列します。当時の私も、友人のお父さんと直接つながりはありませんでした。その方のことが分からないまま参列し、手を合わせていたことに疑問やさみしさを感じ、「その人らしさ」が必要なのではという思いを持ちました。
宗教への意識が薄れている現代においては、儀式・儀礼の意味合いだけで行われる葬儀では十分ではありません。重要なのは、残された人がきちんと送り出せたという思いを持てることです。参列した人全員が故人のことを思い、その人の人生を振り返ることが必要なんです。参列した誰もが故人のことを想像しながら手を合わせることができる葬儀を実現しようとこの事業を始めました。
井上 「その人らしさ」を実現する葬儀というのは、それまでになかった考え方だと思います。当時の葬儀業界の常識を変えるようなことをしてきたんですね。
中川 当時の業界では、残された人の思いを葬儀に取り入れるという考え方はどこにもなかったと思います。顧客のニーズを読み取る必要はないと思われていました。金額的にも不透明感が強いイメージがありました。売り手市場の業界だったので、不透明なことがあっても、お葬式はそういうものだというイメージを持っていた人は多かったと思います。
井上 この事業を始める前は何をしていたのですか。
中川 以前は、結婚式事業の立ち上げに携わっていました。結婚式業界と葬儀業界は、人生のイベントという面では似ている部分があります。結婚式は儀式・儀礼の枠を超え、それまで関わった方々に感謝の気持ちを伝えるためのものという意味合いが強くなりました。葬儀においても、残された人の思いをかたちにすることが大切なのではないかと考えました。結婚式の事業に携わっていた経験が今に生かされています。
遺族の思いを感じ取り、お葬式にもサプライズを
井上 これまでにない新たな葬儀事業を展開していく中で、困難なことも多かったのではないでしょうか。
中川 事業を始めたばかりの頃は、お客さまに「どんなお葬式にしたいですか?」と聞いても、答えが返ってくることはほとんどありませんでした。葬儀への思いを聞かせてほしかったのですが、皆さまぽかんとしてしまいます。お葬式は葬儀社が準備して行うものという認識があるので、自分たちが特別に何かするということは全く頭にないんですよね。
井上 そういった状況から、どうやってその人らしさを叶える葬儀を実現していったのですか。
中川 お客さまの立場に立って考えると、大切な人が亡くなり、気持ちが前に向いていないときにどんなお葬式にしたいかと聞かれても、考えられる状況ではないということに気付きました。それならば、私たちが責任を持ってお客さまの思いをかたちにしよう、思いを感じ取った上でやろうと考えました。結婚式にサプライズがあるように、葬儀にもサプライズを用意しました。
井上 当時、どのような方法でサプライズ演出をしたのですか。
中川 音楽を流したり、亡くなった方と関わりが深いものを飾ったりしました。打ち合わせで自宅へ出向き、ご家族と話をしていると、いろんなことが見えてくるんです。亡くなった方はどんな人だったのかをうかがったり、遺影写真を決めるためにアルバムを見ながらご家族の話を聞いたりします。故人のことをご家族がどう思っているのかを私たちが感じ取り、お葬式をこちらで作ってしまうんです。提案すると絶対に断られるので、事前に提案もしていませんでした。覚悟を決めて実行していました。
お葬式で夢を叶えるお手伝いができる
井上 印象に残っているエピソードはありますか。
中川 ご家族に代わり、私たちが覚悟を持ってかたちにしていこうと決めたきっかけとなった出来事があります。ご主人が亡くなり、奥様と葬儀の打合せをしている中で、ご主人の趣味だった水墨画を飾りましょうという話になりました。30点以上の水墨画を用意してもらいました。最初は2〜3点預かり、祭壇の横に飾るようなイメージをしていたのですが、いただいた水墨画が想像以上に数が多かったんです。
完成度も高く、水墨画にかける故人の思いも伝わってきました。水墨画を受け取り、ご夫婦が葬儀に本当に求めているものは何かを考えました。そこで考えついたのが「個展」でした。作品を展示し、見てもらうことに喜びを感じるのではないかと思ったんです。待ち合いスペースなどを片付けて、個展のスペースにし、準備をしました。
葬儀当日、その個展を見た奥様は泣き崩れるほど喜んでくださり、後日、「夢が叶った」と話してくれました。生前、ご主人と「いつか作品を飾ってみんなに見てもらいたい」と話していたそうです。その話を聞いたとき、私たちが目指している葬儀はこれなんだと、私たちがやろうとしていることは間違いではないと確信しました。お葬式で夢を叶えることができるんだと自分でも驚いたのを覚えています。
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