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がんと並び死亡の主原因となる血管病について知っておきたい医療のこと(1/2 ページ)

発病したら重症化する血管病だが、発症メカニズムを知り、注意しなければいけない生活習慣を実行し予防することができる。

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 がんと並び死亡の主原因となる疾患で代表的なものは、心筋梗塞、脳卒中ですが、これらは動脈硬化を背景とした血管の病気です。そして、日本など先進諸国では死亡原因のトップは悪性新生物(がん)ですが、WHOの報告による世界の死亡原因は心疾患や脳卒中などの血管病が群を抜いて上位に位置します。

 国内の死因別死亡率の年次推移を見ると、右肩上がりに増加している悪性新生物に続いて心疾患も増加傾向にあり、それに脳血管疾患が続きます。しかし、脳血管疾患は高血圧治療が充実してきたことにより1970年頃から漸減傾向で、同じく血管病に含まれる心筋梗塞もその発症リスク管理が徹底されることで死亡数が減少していくことが期待されます。

 心筋梗塞や脳卒中などの血管疾患が、がんと大きく異なる点は、突然死を来し得ることです。がんの中でも急激に進行するケースもありますが、突然命を落とすという事態はまず発生しません。一方、心筋梗塞や脳卒中は、つい先ほどまでいつもと変わりなく日常生活をしていた人が突然発症して急死することが度々見受けられます。

 また、急死という最悪の事態は免れても、発症してから治療まである一定の時間(3〜6時間)を越してしまうと、(1)重症化が余儀なくされて生活の質を著しく下げるような大きな後遺症が残る、(2)結局は命を落とす、など取り返しのつかないことになることが多く、がんに勝るとも劣らず厄介な疾患群です。発症後、いかに迅速に医療機関を受診して有効な治療を行うことができるかが、これら血管疾患に対処する上で極めて大切なポイントです。

 さて、いずれの血管病の背景にも「動脈硬化」がキーとして存在します。心房細動によって生じる心原性血栓症やエコノミークラス症候群(ロングフライト症候群)として知られる深部静脈血栓症→肺梗塞など動脈硬化に関連しない血管病もありますが、ほとんどの致死的かつ重症化し得る血管病には動脈硬化が関わります。

 動脈硬化は全身の血管に発症し得るのですが、発症しやすい部位はある程度決まっています。動脈硬化は、血管の壁が傷み、その傷んだ部分に血栓が生じることで、病的な振る舞いをすることが注目されます。すなわち、血管の壁が壊れやすい所で病的な変化が発生しやすいのですが、それは血流が豊富で物理的に強い血圧が加わる部位に一致しています。

 例えば、心臓、脳、大動脈、下肢の動脈などです。消化管の動脈では小腸や大腸を広範囲に養う腸間膜動脈が動脈硬化により重篤な症状を引き起こすことがありますが、胃、肝臓、膵臓などの血管の動脈硬化が指摘されることはほとんどありません。

 心臓に生じる動脈硬化は、心臓に冠のように覆いかぶさることから冠動脈(かんどうみゃく)と名の付く心臓自身に血液を供給する血管で発症しやすく、急性冠症候群と呼ばれます。

 急性冠症候群の中には急性心筋梗塞、虚血性心臓突然死、不安狭心症が含まれますが、それぞれ病態として一連の変化をたどることがあります。例えば不安定狭心症は発症してから放置すると心筋梗塞に至ることが多い、心筋梗塞が広範囲に起きると突然死が誘発される、など急性冠症候群は各病態が関連しかつ重症化し得るので一体のものとして捉えられます。

 不安定狭心症は死に直結する病態ではありませんが、発症後一旦症状が消失して治ったように感じても間もなく心筋梗塞が発症するリスクが極めて大きいので、不安定狭心症が疑われたら症状が消えても速やかに医療機関を受診することが救命に繋がります。

 脳に発症する血管病は、脳卒中として知られますが、脳卒中は大きく分類すると脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血の3つに分けられます。脳梗塞は脳血管の内腔が血栓で詰まることにより発症し、脳出血、くも膜下出血は、それぞれ脳内を流れる細小動脈の破綻、脳表面を走行する動脈の瘤の破裂により発症します。

 脳卒中の中で6割が脳梗塞、3割強が脳出血、1割弱がクモ膜下出血で、特にクモ膜下出血は致死率が大きいことが特徴です。脳梗塞や脳出血もクモ膜下出血ほど致死率が大きくはありませんが、発症した場所が悪く、治療が遅れると極めて重篤な後遺症が残ることから、最もマークされる血管疾患です。

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