中川政七商店が考える、日本の工芸が100年先も生き残る道とは?:ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(5/5 ページ)
全国各地の工芸品を扱う雑貨屋「中川政七商店」が人気だ。創業300年の同社がユニークなのは、メーカーとしてだけでなく、小売・流通、そして他の工芸メーカーのコンサルティングにまで事業領域を広げて成功している点である。取り組みを中川淳社長が語った。
産地の「一番星」を作り、観光客を呼び込む
大薗: 今後の展望について教えてください。
中川: 日本の工芸を元気にするために、今取り組んでいるのは、産地ごとにマルヒロのような「一番星」を作ることです。これができると2番手、3番手が出てきて、結果的に産地全体の底上げになります。
産地を盛り上げるためには、「旅」も重要です。産業観光と言うと富岡製糸工場みたいな文化遺産への観光をイメージしがちですが、例えば、新潟県の燕・三条で開かれている「工場の祭典」には数万人が押し寄せているのです。モノ作り現場を見た観光客は皆、商品を買っています。これが工芸の生き残る最後の道だと思っています。
そのためには観光客に来てもらわないといけません。たとえ素敵な木造の工房を作ったところで、そのためだけに来るのはただのマニアです。地元のおいしい野菜を使ったレストランや良い宿がそこにあってこそ、初めて訪れようと思うのです。ですから工芸メーカーにはそこまでの環境を整備する責任があります。
こうした産地がたくさんできれば日本はどうなるでしょう。今、日本には300くらい産地が残っていると思いますが、世界的に工芸は廃れていっています。もし100年後もこのまま300ほどの産地が生きながらえることができれば、真の「工芸大国日本」となります。
そのときに本当の意味で初めて、海外の方は日本に来て、いろいろな産地を旅し、それぞれの土地でまったく違うモノ作りを体験できるのです。今無理して外国人ウケの良いモノを作らなくても、それぞれの産地が地道に頑張っていれば、それが観光立国につながるかもしれません。
本来、僕らがそこまでやるべきではないのかもしれませんが、工芸を何とかしようと思うと、結果的にそうした活動に結び付くのです。波佐見ならマルヒロ、奈良であれば中川政七商店が産地の一番星になって、具体的な成功事例を作ればいい。そうした動きをどんどん始めていくことが大切です。
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