Logistics 4.0時代の物流ビジネス:視点(3/4 ページ)
Logistics 4.0 は、物流をボーダレス化し、競争環境が劇的に変容する。新しいビジネスモデルを構築することで、この変化を次なる成長の契機とすることが求めらている。
2-3、物流+αの価値を提供する
「運ぶ」、「保管する」、「梱包する」、「手配する」といった物流の基本オペレーションは、コモディティ化しつつある。ゆえに、装置産業化する以上、スケールメリットを獲得することが求められる。然りながら、その周辺には+αの価値を提供できる領域が少なからず存在する。
米国の3PL事業者であるGENCOは、リバースロジスティクスを得意とする。委託元である小売業者に代わって返品された商品を「廃棄するもの」、「通常商品として再販売するもの」、「アウトレット商品として再販売するもの」に選別する。再販売するものについては、再梱包も代行する。それだけではなく、アウトレット商品については、自社のモールや流通ルートを利用した販売代行サービスも提供している。
ヤマトロジスティクスは、医療機器メーカーによる機器の貸出をトータルサポートする“ローナー支援サービス”を展開している。出荷先である病院からの依頼に応じて当該機器を配送するだけではなく、回収・洗浄・メンテナンスといった機器管理にもワンストップで対応していることが特長といえる。
こういった+αの価値提供は、今後拡大することが予想される。Logistics 4.0により様々な機能・情報が繋がることで、物流+αの範囲を広げやすくなるからである。
例えば、小売物流を通じてエンドユーザーの動向を収集し、メーカーにフィードバックすることで、在庫の圧縮や機会損失の低減に寄与できる可能性がある。生産物流であれば、部品や材料を運ぶだけではなく、荷主が必要とするものを探してくるようなサービスの提供も考えられる。あるいは、食品業界であれば、調達・生産から小売までのプロセス全体を追跡可能なトレーサビリティサービスの提供を通じて、食の安全性向上に貢献することも一考といえよう。アフターパーツロジスティクスであれば、パーツの管理や納入だけではなく、ウェアラブルデバイスの活用により納入先での取付や点検・整備にも対応することが物流+αの価値となる。
畢竟するに、+αの価値とは、荷主の「物流部門」以外に対してサービスを提供することにある。物流会社からすれば、事業領域を物流以外に拡大できるチャンスと捉えられる。その潜在需要をいち早く察知し、物流と組み合わせたサービスモデルを確立することによって、先行者優位を獲得することが戦略の基軸になるといえよう。
2-4、物流アセットを提供する
装置産業化とは、装置の価値が高まることを意味する。“人”がいなくとも、物流の基本オペレーションを提供できるようになるからだ。即ち、「物流ノウハウを蓄積した物流会社」でなくとも、物流サービスが提供可能になるといえる。
例えば、倉庫ロボットが進化し、倉庫内のオペレーションを全て任せられるようになったとしよう。物流不動産会社は、施設と倉庫ロボットをセットで提供するようになるはずだ。そうすれば、保管スペースだけではなく、庫内オペレーションもサービスとして提供できるようになるからだ。物流不動産会社は倉庫業の役割をも担うようになるといえる。
自動運転が実用化し、“人”が乗らない自動運転トラックが幹線道路を走るようになったとしよう。おそらく自動運転トラックのレンタルサービスが普及するはずだ。傭車と同等の輸送サービスを提供することに他ならないからである。“人” が運転するトラックと比べて安全性や連用性が高いことを考えると、傭車以上の輸送サービスともいえよう。
Logistics 4.0は、物流会社に対して物流+αの価値提供というビジネスチャンスもたらす。一方で、物流アセットの提供に関しては、他業界からの参入というリスクをもたらす。装置の調達先や荷主だったプレイヤーが競争相手になるのだ。物流アセットを提供しているだけでは、物流会社としての存在価値を問われるようになるだろう。
3、物流を取り巻く事業環境の変容
Logistics 4.0により物流の装置産業化が進むということは、装置を提供するプレイヤーの事業環境にも変化をもたらすこととなる。
例えば、自動運転トラックが実用化すれば、トラックの調達基準も変わるはずだ。車両価格や燃費、最大積載量といった車両本体の性能に加えて、配車管理システムとの接続性や積載荷物の追跡可能性も問われるようになる。「傭車=自動運転トラックのレンタル」になるのだとすれば、トラックの一時利用を可能とするシェアリングサービスや24時間メンテナンスサービスの提供が必須となる。トラックメーカーは、「トラックを製造・販売する会社」から「輸送サービスをサポートする会社」に進化することが求められるといえよう。(図B参照)
物流不動産会社が施設と倉庫ロボットをセットで提供することにより、倉庫業の役割をも担うようになるとすれば、その立地戦略は大きく転換する。現状、庫内作業に従事する人員確保の容易性は立地選定の主要件になっているが、その制約がなくなるからだ。交通の便を最優先に立地を選べるようになるだろう。
倉庫から“人”がいなくなるということは、マテハンの調達基準にも影響が及ぶ。倉庫ロボットのように“人”がいなくともオペレーションを遂行できることは当然の要件となる。加えて、AIによる効率的なオペレーションの実現は、競争の源泉となるであろう。機器本体の性能差よりも運用の巧拙が生産性に大きな影響を与えるからだ。
データ量に応じてAIが進化することを考えれば、マテハンメーカーは機器の運用状況を恒常的に広く集められる仕組みを構築する必要があるといえる。AIの研究機関や物流不動産会社とアライアンスを組むことも有力な成長オプションになり得るだろう。
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