自動車業界のメガトレンド――“MADE”を前提とした不確実性マネジメント:視点(1/3 ページ)
自動車産業では今後生活者の車の持ち方、使い方、ひいては車両自体や事業者の業界構造にも大きな変化が訪れる。重要となるのは、不確実性を乗りこなす仕組みである。
自動車産業では今後、Mobility(新たな移動手段)、Autonomous(自動運転)、Digitalized(デジタル化)、Electrified(電動化)、すなわち“MADE”というメガトレンドにより、生活者の車の持ち方 ・使い方、ひいては車両自体や事業者の業界構造にも大きな変化が訪れる。しかし影響因子も多くタイミングや確度が見えにくい中、重要となるのは、自社の意志である事業ロードマップを生み出し、使いこなし、進化させ、根付かせることで、不確実性を乗りこなす仕組みである。
はじめに
最近、「破壊的な」という意味の 「ディスラプティブ(Disruptive)」という言葉を耳にする機会が増えてきた。 自動車産業において、産業構造を抜本的に変えるような変化が訪れる……それは車両そのものだけでなく、移動に関わる新たなサービスも出現し、結果として生活者の移動のあり方や車両の持ち方、関わり方も変わる……そのような意味合いで 「ディスラプティブ」が使われる。では、具体的にはどのような変化が起こるのだろうか。
自動車産業のメガトレンド……MADE
今後のキーワードとなるのは、“MADE”という4つのメガトレンドである。 これは「Mobility (新たな移動手段)」、「Autonomous (自動運転)」、「Digitalized (デジタル化)」、「Electrified (電動化)」の頭文字を取ったものである。(図A)
4つは互いに独立のものではなく、組み合わさることで大きなひとつの高効率なエコシステム(生態系)を形成する。それは、どんな交通状況でも対応しうるゼロ事故、クリーンエネルギーを活用したゼロエミッション、移動時間の短縮を実現するゼロ渋滞、1台の車両を徹底活用したゼロ非稼働という、4つのゼロを目指すものである。その実現へのアプローチとして、“MADE”という 4つのメガトレンドが鍵となる。
Mobility(新たな移動手段)
Mobilityとは、自己保有・自己利用を前提とした従来の持ち方・使い方とは異なる形で、移動需要を満たす手段であり、UBERに代表されるシェアードサービスなどが該当する。新たな移動手段への投資家の関心は高い。
そもそも自己保有の車両を利用する以外のモビリティ、即ち既存のカーシェア、ライドシェア、配車サービス、そしてロボットタクシーのような「モビリティサービス(MaaS : Mobility as a Service)」を合わせた総移動距離は2025年に 1.4兆人キロに達すると推察される。(図B)
これは、世界中の総移動距離の6パーセントに該当する。これだけの市場ポテンシャルが背景にあり、UBERやLyftという大手に加えて、VWが出資したGett、ニューヨークでサービスを開始して3000万ドルの資金を集めたJUNO、シカゴやワシントンDCで乗り合いサービスを提供して7000万ドルの資金を集めたVIAなど、多くのシェアードサービス事業者が登場し、資金集めに成功している。
一方で、新規参入者の攻勢により、既存のタクシー産業は打撃を受けている。 サンフランシスコでは従来、220億円以上あったタクシーの市場規模が、UBERの出現以降は数年で150億円にまで、つまり3割以上縮小し、倒産する事業者も出ている。新規産業の勃興の裏には、このような既存産業への影響も出てくる。
Autonomous(自動運転)
Mobilityにも大きく関わってくるのが自動運転である。各OEM(完成車メーカー)は現在いわゆるレベル2(加速・操舵・制動のうち複数の操作を同時にシステムが行う状態)を投入済/計画中で、今後さらにレベル 3(システムが要請した時は ドライバーが対応する前提で、加速・操舵・制動全てをシステムが行う状態)、レベル4(加速・操舵・制動全てをドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態)の実用化も狙っている。
ただし、レベル3は自己保有の自家用車も対象として含まれ、走行場所を制約するのが現実的には難しいため、インフラの整備状況などが異なるあらゆる場所で対応できる技術が求められることから、ハードルはかなり高い。それよりもロボットタクシーなどモビリティサービス事業者向けを前提としたレベル 4を先行して実用化を目指すというFordのような戦略も出てきている。
既に一般道路でのロボットタクシーの試験も世界中で始まる中、多く用いられているのがEASY MILEの乗り合い自動運転車両で、巡航で時速20キロメートル、最大でも時速40キロメートルという運用形態である。
まずは慎重なところから始めて技術やオペレーションを詰めていくのはもちろんのこと、生活者に対して自動運転の有効性を認知してもらい、未知が故の過剰な懸念を払拭(ふっしょく)するという狙いもある。
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