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転換期を迎えたベトナムのヘルスケア産業と事業機会飛躍(2/4 ページ)

今、ベトナムのヘルスケア産業は大きな転換期を迎えようとしている。言うまでもないが、大きく変化するタイミングは、大きな事業機会でもある。

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Roland Berger

 先進医療機器の導入は、ある意味わかりやすく医療水準をPRできる。病院が、「最新の医療機器を導入した」、ということを高らかに院内にポスターを貼ってアピールしている例は、ASEAN各国で見られる。実際、こうした取り組みも、富裕層患者の診療先決定に影響を及ぼしている。医療機器のスペックで見劣りするベトナムは、富裕層の海外流出(メディカルツーリズム)が増えつつあることが悩みだ。ベトナム富裕層の近隣国へのメディカルツーリズムは、年間3〜4万人に達し、その医療費も1〜2億米ドルに達していると推定されている。

2. 政府主導から民間開放へ

 一般的に、国民医療費の増加は、経済成長と正比例の関係にある。2000年に20.3米ドルであったベトナムの1人当たり医療費は、2013年に111.2米ドルに達し、13年で5倍以上に拡大した。また、家計に占める医療費の割合も、2013年は16.4%に達し、2000年(5.8%)の3倍近くに膨らんだ(図2)。

 ここ十数年の急成長を支えたのは、前述の通り、ベトナム政府主導の医療インフラへの投資だ。ベトナムのGDPに占める医療費支出は7%で、ASEANでも高水準だ。この支出の多くを政府が支えてきたという点では、ベトナム政府の医療へのコミットメントは、ASEAN でも群を抜いて高い。では、今後も、ベトナムのヘルスケア産業は政府主導で進められるのだろうか。答えはNoだ。まさに今、ヘルスケア産業の主役が政府から民間に移りつつあるのである。

2.1 公立病院の民営化

 1990 年代初頭、ベトナム政府は、新しい社会保障制度(BHYT)を打ち出した(1992 年開始)。同案は、まず国営企業の従業員から社会保障の対象に組み入れ、徐々に国民全体に広げていくものであった(図3)。

 改革は順調に進んできたが、最近では停滞が見られる。2020年までに国民の84.3%をカバーする目標だが、現時点では78%で足踏みしている。にも関わらず、都市部の公立病院は、殺到する患者に既にお手上げ状態になっている。10年間で5倍以上を膨らんだヘルスケア市場を今後も政府主導で支えていくことの限界を感じたベトナム政府は、2014年に「公立病院から民間病院への切り替え(民営化)」を認め、同時に「民間病院の新規参入」、「外資病院の新設許可」に至るまで、一気に規制緩和を進めた。

 規制緩和後の2015年、Hanoi Transport Hospitalは、株式の51.5%をT&T GROUPに譲渡し、ベトナム初の病院の民営化事例となった。Vinh Transportation Hospital、Da Nang Transportation Hospitalなども、現在積極的に民営化を検討している。先行する民営化病院が成功裏に成長すれば、民営化案件はますます増えていくだろう。

 また、民間病院の新規参入が認められたことで、民間病院間の競争も活発化している。2016年にJCIに認定されたばかりのFV Hospitalは、富裕層をターゲットとする民間病院である。同グループは、これからの3年間で、所得階層に応じたクリニックを全国30カ所に新設する計画だ。プライマリケアから基幹病院までをネットワーク化することで、患者の多様なニーズに応えられるグループを目指している。

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