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ベビー用品のピジョンが圧倒的シェアを獲得できる理由ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/4 ページ)

ベビー・ママ用品メーカーのピジョンが開発する哺乳器などが売れている。しかも国内だけではない。世界各国にマーケットを拡大しているのだ。その強さの秘密とは何だろうか?

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 日本の出生数がついに100万人を割った。厚生労働省の発表によると、2016年に生まれた子どもの数は97万6979人で、調査が開始されてから初めて100万人を下回った。

 そうした逆風をもろに受けながらも業績を伸ばしているのが、ベビー・ママ用品を扱うピジョンだ。同社は哺乳器の国内市場シェアが78%、哺乳びん洗剤が83%、さく乳器・母乳パッドが71%と圧倒的だ(2017年1月度 インテージPOS全国BS・DRG合算<単月> 拡大推計値より 哺乳器・さく乳器・母乳パッドは金額シェア。哺乳びん洗剤は数量シェア)。

 同社の強さの源泉とは何か? 経営戦略は? 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、ピジョンの山下茂社長にインタビューした(以下、敬称略)。

世界的な大ヒットとなったピジョンの哺乳器「母乳実感」
世界的な大ヒットとなったピジョンの哺乳器「母乳実感」

哺乳の3原則を発見

大薗: ピジョンの経営戦略の特徴は、0〜18カ月の赤ちゃんとそのお母さんにターゲットを絞り込んでいる点です。主力商品である哺乳器は国内市場で7割以上というシェアを占めていますが、どうしてここまで顧客から支持されているのでしょうか?

山下: ピジョンの顧客はお母さんたちで、扱っている製品は育児用品。育児用品というのは限られた期間でしか使いませんが、創業時から哺乳器を中核商品に据えています。

 多くのママが「母乳育児」を望んでいますが、さまざまな事情から母乳をママのおっぱいから直接あげられない場合もあります。そんなとき、授乳をサポートする哺乳器が必要となります。

 哺乳器を製造するための機械や原材料など、決してハイテクではありませんが、ピジョンはその品質を高める取り組みを長年続けていて、技術を磨いています。それが大きな強みです。授乳をサポートする哺乳器の代替品はありませんし、なかなかイノベーションが起きにくいのが現状です。

大薗: 確かにそうですね。何らかの事情でママのおっぱいから直接母乳を飲めないとき、赤ちゃんは哺乳器で飲みますからね。

山下: また、哺乳器は日本で30億円程度と、この市場がそれほど大きくはないことも無関係ではありません。育児用品はせいぜい2〜3歳くらいまでが対象で、大企業が参入しにくいのです。現にピジョンの競合メーカーの1つにオランダのフィリップスの子会社で、アベントという会社がありますが、この業界では大手と言えばそのくらいです。例えば、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やジョンソン・アンド・ジョンソンも市場に入ってこようとしましたが、哺乳器のような領域ではなかなか成功しませんでした。

 新規参入も難しい市場です。国内に関しては、少し変わりつつありますが、歴史的に代理店経由で販売を行うビジネスモデルです。海外にはさまざまなメーカーがあるのですが、国内代理店と契約して、ドラッグストアなどに流通させるのはなかなか難しいのです。最近はベビー用品の専門店が増えてきて、海外のプレイヤーと直接取引もしていますが、まだマジョリティではありません。

 かたやピジョンは国内事業をビジネスの源泉にして海外に打って出ました。現在、海外売り上げは約半分にまで成長しましたが、海外売り上げ比率が10%を超えたのは2000年と、決して昔から海外でも強かったわけではありません。当初は日本で作った商品をそのまま海外で販売していましたし、商品の魅力ももうひとつでした。

 他社と違った付加価値をはっきりと提供できるようになった商品が、2010年に発売した「母乳実感」でしょう。

 当社では、哺乳に関する基礎研究を行っており、哺乳3原則を発見しました。哺乳の運動は、(1)吸着(パクッとくわえる)、(2)吸啜(舌の動きで母乳を引き出す)、(3)嚥下(ゴックンと飲み込む)という3つの原則から成り立っているというものです。

 この原則に基づいて開発した哺乳器「母乳実感」は、日本だけでなく海外でも販売し大ヒット商品となりました。実際、赤ちゃんの5人に1人くらいが「乳頭混乱」という問題に直面するようです。これは、お母さんのおっぱいから母乳を飲んでいた赤ちゃんが、何らかの事情で哺乳器から母乳やミルクを飲む際に、お母さんのおっぱいと違うと感じて哺乳器を嫌がること、また逆に、哺乳器で母乳やミルクを飲んでいた赤ちゃんが、お母さんのおっぱいから授乳するときに嫌がることです。

 母乳実感は、この乳頭混乱を起こしにくい哺乳器なのです。さまざまな事情で母乳をママのおっぱいから直接あげられないときに、授乳をサポートできる哺乳器として、多くの国のお母さんたちに使っていただいております。

大薗: 国内で強みを確立したのに、海外ですぐには成果が出なかったというのは興味深いです。

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