日系製薬企業の戦略的トランスフォーメーションの進め方:視点(1/3 ページ)
薬価引き下げ、ジェネリックの台頭など、日本の製薬ビジネスを取り巻く経営環境が今後一層厳しさと複雑性を増していく。
薬価引き下げ、ジェネリックの台頭など、日本の製薬ビジネスを取り巻く経営環境が今後一層厳しさと複雑性を増していく中で、中堅新薬系メーカーにおいては事業軸・機能軸・地域軸でのビジネスの徹底的な組み換え(コンフィギュレーション・マネジメント)による抜本的な戦い方の変革が求められている。
自前主義を見直し、M&Aや事業スワップを活用した疾患領域の大胆な絞り込み、ベンチャーキャピタル的な投資活動を通じた創薬シーズおよびBeyond/Around ドラッグなどの最新テクノロジーへのアクセスといったコーポレートアクションを駆使し疾患スペシャリストに進化することで、日本市場での生き残りだけではなく、グローバル市場で戦える企業体への戦略的トランスフォーメーションが望まれる。
1、抜本的な戦い方の変革が求められる製薬業界
昨今、多くの産業において、日本企業の停滞が指摘されている。具体的には、国内市場が成熟・停滞する中で、同質的なプレイヤー同士が競争・消耗する一方、新興国をはじめとした海外の成長市場では、グローバルメガプレイヤーやニッチトップが躍進しているというものだ。
この様な状況下、日本企業には従来の事業戦略や組織戦略による対処を超えた、抜本的な構造変化(Strategic Transformation)が必要と言えよう。その一手段として弊社は" ConfigurationManagement(コンフィギュレーション・マネジメント) "という概念を提唱している。もともとはソフトウェア業界や軍事関連の用語で"構成管理"を意味する言葉であるが、弊社においては、単なる事業ドメインの再定義よりも広く抜本的な概念として、「事業軸・機能軸・地域軸でのビジネスの構成要素プロセスの組み替え」と定義している。本稿では、日本の製薬業界を例にとりコンフィギュレーション・マネジメントの重要性・具体的手法について提言をさせていただきたい。
製薬業界においても置かれている状況は前述の通りで、今後各社にとってより一層経営環境は厳しくなるものと予測される。これまでは、健康に関する強いニーズや国内における高齢化の進展を下支えとし、糖尿病や高脂血症といった生活習慣病領域のブロックバスターをはじめとする新薬の創出により各社は成長し、市場を拡大してきた。今後の市場規模の予測については各機関見方は異なるものの、一様に成長率の鈍化・飽和が指摘されている。そう見られる要因は大きく2つあり、新薬創出難易度・コストの上昇と、"新薬"というカテゴリーに対する風向きの悪化である。
1点目については、周知の通り、生活習慣病に代表されるプライマリ疾患領域においては、ある程度有効性・安全性の高い薬が既に存在し、開発余地が残されている領域はメカニズムが未解明の疾患に対する治療薬や、既存薬の有効性・安全性を大幅に上回る治療薬が主であることに起因する。また、これまで日系製薬会社が得意としてきた低分子化合物から、核酸医薬やペプチド医薬といった生物学的製剤に開発のフィールドがシフトしていることも一因であろう。
主要メーカーの現状のパイプラインや近年のM&A動向を踏まえても、スペシャリティ領域へのシフトが顕著である。また、当該領域の新薬開発はこれまでより難易度が高く、結果として新薬の開発成功確率の低下や品目あたりの開発コスト上昇が過去に比べて顕著に見られる。加えて、そもそも特定の小規模患者を対象とした治療薬である場合が多い為、品目あたりから期待できる収益も年々低下しているのが現状だ。
この様な新薬創出難易度やコストの上昇に加えて、2点目に上げた"新薬"に対する風向きの悪化も国内の新薬メーカーにとって悩みの種だろう。代表的な動きが後発医薬品の普及促進だ。従来後発医薬品の浸透率の低さが課題とされていた日本政府の、後発品利用にかかわる病院や薬局の点数加算といった積極的な促進策によって、足元での後発医薬品普及率は50%まで上昇してきた。2020年には80%以上を目指すとも言われており、病院や医師、患者の行動心理を踏まえても不可逆な流れといえる。加えて、先日決定された薬価改定基本方針においては、オプジーボの高騰を受けての薬価の毎年改定や新薬創出・適応外薬解消等促進加算のゼロベースでの見直しが議論されており、対象範囲や程度の問題はあれど新薬メーカーにとって厳しい風向きとなることは間違いない。
ではこうした状況下、日本の製薬会社はグローバルでどの様な位置付けになるのであろうか。日本の製薬会社を研究開発力の観点から見ると、国全体として見た際の創薬能力は極めて高いといえる。世界売上上位100品目中、日本をオリジンとする新薬は約11品目で、アメリカに続いてスイスと並び第2位のポジションを獲得している。しかし、一方で、企業としてのプレゼンスは必ずしも高いとはいえず、グローバルメガファーマーに比して個々の規模や研究開発能力は見劣りするのが現状だ。
先述した通り新薬の開発難易度や開発コストが今後ますます上昇し、新薬というカテゴリー自体に対しても逆風が強まることを考えると、グローバルで競合にごしていく為には研究開発効率の向上は必須命題であろう。その手段として、これまでの各社の取組みよりも一層抜本的な自社の競争領域・非競争領域の見極め、それに併せたコンフィギュレーション・マネジメントの可能性を提唱したい。
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