「2027年の消費者」〜多様化×音声・対話AIが及ぼすインパクト:視点(1/3 ページ)
これからの10年間は、デジタル化への対応に加え、消費者の変化も見据えた対応、すなわちこれまでのビジネスモデルそのものの革新が求められる。
今後10年間、日本では団塊世代の引退と価値観の多様化に起因するフォロアー層の消滅により、消費者のセグメント構成が大きく変容する。また、音声・対話AIと対応端末によるアンビエントコンピューティングの普及は、消費者に新しいユーザー体験をもたらしデジタルライフを大きく変えていく。このような「消費者の多様化」×「音声・対話AIの普及」は、企業の競争環境に3つのインパクトを与えるだろう。結果、プラットフォーマー型の企業が大きく力を伸ばし、国内フォロアー層に頼ってきた多くの業種の伝統的大企業が衰退を余儀なくされる。これからの10年間は、デジタル化への対応に加え、消費者の変化も見据えた対応、すなわちこれまでのビジネスモデルそのものの革新が求められる。
はじめに
皆さまの中で、今から10年前、2007年の人々の消費行動を正確に記憶されている方はどれくらいいらっしゃるだろうか。変化のスピードが増し、情報が洪水のようにあふれる現代において、過去を時系列に記憶することは簡単ではない。このような中で、未来を予測することが難しいのはなおさらだ。
図Aは、過去10年間で消えた/減ったものと、逆に生まれた/増えたものを比較したチャートである。たった10年間で多くのものが生まれ、消えていったことがよく分かる。ところで、2007年といえばiPhoneが発売された年である。私は10年前、将来のスマートフォンの普及は予測できたが、C2C市場の拡大までは予測できなかった。なぜなら、スマホアプリでメルカリのように革新的なユーザー体験を生み出せることは想像もつかなかったし、ユーズドのファッションで満足する消費者セグメントが日本でここまで増えるとは思わなかったからだ。
このように未来を予測することは難しいことが常だが、我々は想像を止めてはならない。なぜなら、未来予測は当てることに意味があるのではなく、未来を思い巡らし想像することで変化への対応力を高めることに意味があるからである。今日企業を取り囲む不確実性はますます高まっている。そのような事業環境では、変化に対する組織対応力や柔軟性を持つことが勝ち残りに向けて重要になる。
そのためには、常に未来のことを考え、想像し、変化に対して組織全体が敏感になることが必要だ。以上のような問題意識の下、本稿では10年後の消費者及び購買行動がどのように変わっていくのかを大胆に予測し、企業の対応力向上に向けた材料としたい。
消費者の多様化
今後10年間で大きく変わるもの、その1つは消費者のセグメント構成である。これまでの日本の消費者セグメントにおける特徴の1つに、弊社がフォロアー層と呼んでいる自らの価値観が希薄でトレンドに流されやすい中間層の存在がある。フォロアー層は戦後の高度経済成長と人口ピラミッドの偏りが生んだ日本固有の巨大な消費者セグメントであり(図 B-1参照)、国内の消費財企業や流通・小売業の多くが頼ってきた市場である。しかしながら、消費社会の成熟化、デジタル化に伴い、現在フォロアー層はさまざまなグループに分かれ、独自の価値観を持った消費者セグメントを形成し異なった消費行動をとり始めている。
実は、消費者を価値観ベースのセグメントで細分化することは、グローバルではよく使われる実践的なセグメンテーション手法である。弊社は、消費者の価値観を見える化する独自のフレームワーク:rbプロファイラーを開発しており、過去約20年に渡りグローバルで消費者の価値観ベースのセグメンテーションを研究してきた。実際グローバルでは200社以上の企業でご活用いただいているrbプロファイラーを用いると、消費者がどのような価値観に肯定的か否定的かが分かり(図Cの青が肯定、赤が否定)、その組み合わせで価値観の見える化とセグメンテーションが可能となる。この研究により、消費者を普遍的な価値観・考え方で分けると世界中のほとんどの国・地域で8つのセグメントで消費者を捉えられることが判明した。各セグメントの説明はスペースの都合上割愛するが、ポイントは文化や民族性の影響により構成比は異なるものの、8つのセグメントは国をまたいでも共通して適用可能なことだ。
例えば、図Dで示す通り、8つのセグメントは日本、ドイツ、中国全てに存在し、国によりセグメント構成が異なる。中国は、消費意欲が全般的に強く倹約志向層が少ない一方、デフレが続いた日本では倹約志向層が3カ国で一番高いなど、文化や経済事情を背景とした各国の特徴がよく分かる。
日本の場合、グローバルでは一般的な次の3つのセグメントが少なく、価値観が希薄で流されやすいフォロアー層の大きいことがこれまでの調査より明らかとなっている。すなわち、社会志向層(環境や社会問題に敏感。資本主義にて懐疑的であり、エシカル消費やシェアリングエコノミーに対して積極的)、先進・革新志向層(デジタルやイノベーションに対してオープンな層。消費行動におけるEC化率が最も高い)、快楽主義層(人生を純粋に楽しむことがモットー。ワークライフバランス重視でC2Cにも積極的)の3つである。
しかしながら、足元ではこれらのセグメントも増え始めており、生粋のフォロアー層の多かった団塊の世代が今後10年間で市場から消えていくことを加味すると、今後日本でもグローバルと同じく8つのセグメントに分化していくことは確実である(図B-2参照)。
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