新興国における破壊的イノベーション:視点(3/4 ページ)
経済成長や安い労働力を背景とした従来型新興国ビジネスから、未来構想型の新興国ビジネスへシフトしていくべきである。
新規事業の立ち上げ、新興国への展開は、プロジェクトベースで考えがちであるが、産業を構造的に変革できるか、新たな業界のプラットフォームになり得るか、という中長期的な視点が重要になる。また、描いた未来を実現するには、各国政府やキープレイヤーとの連携も欠かせない。
3、いま、攻めていくべき日本企業と必要な意識改革
東南アジアで新たな事業を展開しようとしている日本企業が直面しやすいハードルに、以下のようなものがある。
(1)本社が東南アジアで進んでいるデジタル化のスピードを理解していない
(2)デジタル化が東南アジアで進んでいることは理解していても、自社事業と結び付けて考えることが難しい
(3)現地駐在員はいわゆる従来型の新興国事業を担当しており、新しいビジネスモデルや業界変革を狙うような役割ではない
(4)市場調査と社内検討に時間をかけすぎているうちに事業環境が変化し、参入のタイミングを逸する/パートナー企業がしびれを切らす
(5)新規事業に参入したいが、前例がない事業で成功確率が読めないため、本社の決裁が下りない
(6)リスクを低減するために小規模で新規事業を始めたものの、立ち上がらないうちに、大規模プレイヤーが大規模投資をして勝てなくなった
これらは筆者が東南アジアで実際に目にした日本企業の実例である。
繰り返しになるが、今までの成功体験、他社の成功事例は、もはや参考にならない。この状況を打破するには、デジタル化、技術革新の動向を常に見極めながら、自社が目指すべきところ、変革しうる産業構造の絵を描き、大胆かつスピーディーに事業を立ち上げていくこと。かつ、政府や現地企業も巻き込み、結果を引き寄せていくことが必要になる。
もちろん、日本企業においても、東南アジアにおけるDisruptiveな変化の潮流を捉えようとしているプレイヤーは存在する。
例えば、ソフトバンクは、ライドシェアのGrabや、インドネシア最大のマーケットプレースであるTokopediaといった東南アジアの産業構造を大きく変えうる事業に莫大(ばくだい)な投資をしている。価格比較サイトを運営するカカクコムは、自社事業をアジア4か国で展開するほか、東南アジアの金融比較サイトやファッションECに戦略的に出資。自社のノウハウを生かしつつ、現地でのオンライン市場の成長を取り込もうとしている。
製造業においても、例えば住友化学が、EDB(シンガポール経済開発庁)の支援を受けたIoTプロジェクトの一環として、日本国内に先駆けて、シンガポールの化学プラントへのAIの導入を進めている。島津製作所や横河電機もシンガポールにイノベーションセンターを設置し、政府や学術機関と連携しながら、先端技術の事業化に取り組んでいる。
ローランド・ベルガーでは、日本企業がグローバルで存在感を発揮していくためには、日本の強みを生かしたイノベーション(=和ノベーション)の実現が必要だと言い続けている。「和ノベーション」は、当社が提唱する日本型イノベーションのことであり、日本の「和」、対話の「話」、仲間の「輪」の意味を含む。企業や個人が持つさまざまなノウハウ、技術、知恵などの「暗黙知」をモジュール=「ありもの」として見える化する。対話を通じて、「ありもの」を部門、企業、業界を超えた仲間の輪へと広げる。このような「ありもの」の徹底的な活用により、異次元のスピードで新しい価値創出を推進するという考え方である。
この「和ノベーション」を通じ新たな価値創造、産業革新を実践する舞台として、新興国、とりわけ東南アジアは最適な場所だと考える。東南アジアにおいてDisruptive、つまり従来の延長線上にない、破壊的な技術・産業革新が今まさに起きている中、地の利があり、技術力や資金力がある日本企業は非常に優位なポジションにいる。
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