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創業43年目で株価が最高値を更新中〜世界最大のソフトウェア会社、マイクロソフトに何が起きたか?ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

大変貌を遂げようとしているマイクロソフトは今、どんな取り組みを進めているのか。

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『マイクロソフト 再始動する最強企業』

 この10年、IT市場を席巻してきたのは、グーグルやFacebookなどの新興企業でした。アップルのように復活を遂げた企業もありました。そうした一連の企業群に比べると、マイクロソフトは「Windows」や「Office」など当たり前のツールを作る、ひと昔前のオールドカンパニーという印象を持っている人が少なくないかもしれません。

 しかし、そのマイクロソフトが2015年、創業40年目にして株価が最高値を付け、以後もそれを更新し続けていることをご存じでしょうか。2018年7月末現在の株価は106ドル。これは、最高値をつけた2015年の約2倍です。時代の変化に乗り遅れたオールドカンパニーに、果たしてウォール街の厳しい投資家たちが、こんな評価をするでしょうか。2017年には、時価総額ランキングでベスト5にも入っています。

 実は、マイクロソフトは今、大変貌を遂げようとしているのです。これこそが、株式市場の評価の背景です。私はこの事実を、2015年に日本マイクロソフトの平野拓也社長へのインタビューで知りました。終わり際、平野社長はこんな発言をしたのです。「マイクロソフトは去年、本社のCEOにサティア・ナデラが就任しました。これまでのマイクロソフトが見ていたのはITという世界でしたが、サティアはITを超えたまったく別の世界を思い描いています。人の生き方にまでさかのぼってマイクロソフトに期待されるサービスは何かを考え、最適な組織に作り替えようとしているんです」

 驚きました。平たくいえば、新しいCEOはマイクロソフトをゼロから作り替えようとしている、ということだと私は受け止めました。そしてこれが、本当にそうだったのです。従業員12万人を擁す、売上高10兆円を誇る、世界最大のソフトウェア会社が、です。

 この変革に強い関心を抱き、後に私はシアトル本社にも取材に行って日米の幹部に多数取材し、『再始動する世界最強企業』(ダイヤモンド社)を書き上げることになります。アメリカ人幹部からは、驚くべき話を聞きました。

 変革にあたってまず彼らが何をしたのかというと、「どんな未来になっていくのかということを、勇気を持って定義すること」だったというのです。今、自分たちの足元にあるものから未来を視るのではなく、来るべき未来から変わるべき現実を直視していった。「自分たちは何のために存在しているか」から問うた。改めて、自分たちの存在意義から見直していったのです。そして、ミッションを作り替えました。

 それだけではありませんでした。会社を変えるにはカルチャーを変えていく必要がある、と気付き、会社のカルチャー変革に挑むのです。そのキーワードが「グロース(成長)マインドセット」という言葉でした。もっと会社としてリスクを取らないといけない。成長のためにマインドを変えないといけない、と。

 このキーワードを含めた5つがステートメントシートに描かれることになりますが、驚くべきは、これを真っ先に実践したのが、ナデラCEO本人だったことです。それが、ソフトウェアからクラウドへのビジネスの大転換であり、Windowsの無償化という驚くべき決断でした。事業の屋台骨をひっくり返す、とんでもない宣言をしたのです。

 マイクロソフトは創業以来、基本的にソフトウェアのライセンスビジネスによって売り上げを立ててきました。1台のパソコンにOSであるWindowsが入り、Officeをはじめとしたアプリケーションが入り、それらはライセンスの形で販売されました。アップデートが行われれば、有償でライセンスが与えられました。アップデートの度に、課金ができるというビジネスモデル。これが巨額の売り上げ、利益を生み出していました。このビジネスモデルを変えていく、と宣言するのです。これが、会社を激変させます。

 それまで営業が売り上げを立てるには、何本のライセンスを販売できるかというものでした。ところがこれが、どのくらいマイクロソフトのクラウドを使ってもらいコンサンプション(消費量)を獲得できるか、に変わったのです。ソフトウェアを購入してもらうのではなく、クラウドサービスをいかに使ってもらえるか、になる。

 1回だけ売り込んで買ってもらえばいい、という商売ではなくなります。信頼関係を築き、さまざまな提案をすることで、長くたくさん使ってもらうという商売をしなければいけなくなる。発想も、カルチャーも、大転換が必要でした。そして、そのためにまたナデラCEOは業界を仰天させます。なんとかつてのライバルと手を組み始めるのです。

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