「ビジネスとITをつなぐ日本一の人間になる」 RIZAP CIOの岡田氏は「無名時代のファーストリテイリング」で何を学んだのか:CIOへの道(1/2 ページ)
ダイエットのビフォーアフターを見せるテレビCMで一躍有名になったRIZAP。そんなRIZAPの“ビジネスとITをつなげる役割”を担うキーパーソンが、同社取締役でCIOを務める岡田章二氏だ。同氏が考える「ビジネスとITの関係」「あるべきCIOの姿」とは一体どのようなものなのだろうか?
この対談は
日本企業のCIO設置率は42.1%、うち、専任者は6.5%――。これは平成27年6月に発表された経済産業省の「情報処理実態調査」によるもので、ITとビジネスが不可分な時代になったにもかかわらず、それらを統合的に見るCIOという存在がいまだ少ないことを示しています。
なぜ、CIOが増えないのか――。理由はいろいろありますが、その一つには「そもそもCIOとは何なのか」が知られていないことが挙げられます。今、活躍しているCIOは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、CIOになるために必要な資質とは何なのか――。この連載では、CIOを目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、CIOになるための道を探ります。
RIZAPグループ 取締役 事業基盤本部 本部長 岡田章二氏プロフィール
1965年生まれ。ユニバース情報システムを経て、ファーストリテイリングに入社。情報システム部部長、執行役員CIOなどを歴任し、業務改革やIT戦略を担うなど20年以上にわたり活躍。2017年6月、RIZAPグループの取締役 事業基盤本部 本部長に就任。グループ各社のサービスをIT面で支える。
クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 兼 AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年からクックパッドで海外を含むシステム刷新を推進する。2018年、AnityAを立ち上げ、代表取締役に就任。システム企画・導入についてのコンサルティングを中心に活動。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
ダイエットのビフォーアフターを見せるテレビCMで一躍有名になったRIZAPグループ(以下、RIZAP)。看板事業であるプライベートジムの他、積極的なM&A戦略によってアパレル事業やエンタテイメント事業、住関連ライフスタイル事業など次々と事業領域を広げている。
そんなRIZAPの“ビジネスとITをつなげる役割”を担うキーパーソンが、同社取締役で事業基盤本部の本部長を務める岡田章二氏だ。同氏はかつて、ファーストリテイリングがまだ知られていないころから一大グローバル企業へとユニクロが急成長する過程を、ITの面から支え続けてきた。
そんな同氏が考える「ビジネスとITの関係」「あるべきCIOの姿」とは一体どのようなものなのだろうか? レシピサイト大手、クックパッドのコーポレートエンジニアリング部部長として同社のビジネスをIT面からけん引する中野仁氏が話を聞いた。
「日本一のCIO」を目指して入社したファーストリテイリング
中野氏: そもそも、前職のファーストリテイリングに入ったきっかけは何だったのでしょうか?
岡田氏: もともとは、SIerのエンジニアとして、開発やプロジェクトマネジメントに従事していました。自分でいうのもなんですが、仕事で結果は出していたのです。それがある時、システムはうまく機能しているのに、ビジネスがまったくうまくいかない案件に直面したことがあったのです。これにすごくショックを受けたんですね。IT自体はとても可能性があるものなのに、それが「ビジネスにとって良い方向に使われないこともある」と知ったときに、とても大きな違和感を覚えて、これを解消するにはITとビジネスの両方をできる事業会社に移るしかないと考えたんです。
中野氏: そこでなぜ、ファーストリテイリングを選んだのでしょうか?
岡田氏: それは、当時まったく知られていない会社だったからです。売り上げがわずか150億円ほどしかない頃でしたから、周囲からも「なぜそんな会社に行くんだ」と言われました。でも、私が当時、目標としていたのは、「ビジネスとITを結ぶ日本一の人間になること」だったんです。そうなるためには、既に出来上がっている大企業ではなく、これからの成長が見込める中小企業の方が良かったんです。
中野氏: 「仕組みが出来上がってないからこそ、自分で仕組みをデザインできることの醍醐味」は、私も今の会社で経験したのでとてもよく分かります。
ファーストリテイリングは日本一どころか、一大グローバル企業にまで成長したわけですが、その過程では、やはりITが果たした役割も大きかったのではないでしょうか。
岡田氏: そうですね。ただ、それはあくまでも一面にすぎなくて、やはり最も大きかったのは柳井さんの経営戦略です。当時から柳井さんは「10年後に売り上げ3000億円」という成長プランを描いていて、周囲の人たちはほとんどこれを信じていなかったように感じましたが、私は不思議とすっと腹落ちしたんですね。結果的にはさらに早いペースで売り上げが伸びて、中小企業から大企業、グローバル企業へと急成長する過程に直接参加できたので、とても貴重な経験ができたと思っています。
中野氏: 売り上げ150億円の時期に「10年後に3000億円」と宣言する柳井さんもすごいし、それが腹落ちした岡田さんの胆力もすごい……。しかし、それほどの急成長を支えるITシステムを担当するのは、さぞや大変だったのではないでしょうか。
岡田氏: それはもう、地獄でしたよ(笑)。夜間バッチが落ちて月曜の朝イチに実績数値を見ることができなかったことに柳井さんが激怒して、「何が何でも月曜の朝に数字が出るようにしろ!」と言われたので、日曜の夜は毎週会社に泊まっていました。「24時間仕事をしろ」と言われて、その通りに24時間仕事してましたね。
優れたリーダーはITの有用性をきちんと理解している
中野氏: 修羅場ですね……。そんな地獄の日々から得たものは、一体何だったのでしょうか?
岡田氏: 柳井さんはとても厳しいけれど、その半面とても温かい人でもあって、もちろん経営者としてはすごい人でしたから、一緒に仕事ができたのは得難い経験でしたね。あと、これはRIZAPの創業社長である瀬戸さんとも共通しているのですが、ITには全然詳しくないのに、ビジネスにおけるシステムの重要性を深く理解していましたね。やっぱり創業社長は、自ら会社のメカニズムを作っているだけあって、全体最適の観点から事業のバランスを取るのがとてもうまいと感じます。
中野氏: それは私も感じます。何回か創業社長の下で働く機会があったのですが、ハッと驚くことが何度もありました。全体を見渡した上で話をするからか、直観が鋭いからか、判断が的確なことが多い。自分が知らない分野にもそうだったりする。システムについて決して詳しくないはずなのに、サッと瞬時に本質的な判断をする場面を見てドキッとしたことが一度や二度ではありませんでした。創業社長は社長の中でも何やら別格な感じがします。
全体像を捉えた上で、どこが問題の根っこなのか(ボトルネックなのか)をピンポイントで特定するのは、ものすごく難しい。広大で構造が複雑で、さまざまな因果関係が絡み合う会社組織が対象ですから。
でも、問題の特定がうまくいかないと、打ち手も「原因ではなく、症状をもぐらたたきする」ことになり、部分最適に陥る。そうすると、いくらシステムに投資しても効果が出せず、単なる過剰投資にしかならないことも多々ありますよね。自戒も込めて、システム部門をやっていると、システムに視点が寄り過ぎて「全体が見えなくなることがある」という点に気を付けなければ、と思います。
岡田氏: 本来は社長だけでなく、CIOもそうした全体最適の視点を持たないといけないんですけどね。ちなみに柳井さんはキーボードも苦手な方だったのですが、あるとき「岡田、情報は少なければ少ないほどいいんだ。その方が効率的に判断して、素早くアクションを取れるだろう」と言われて、びっくりしたのを覚えています。「この人は本当にすごい、付いていこう」と、心底思ったのはその時でした。
私は会社というのはメカニズムだと思っているんです。例えば、歯車の一つが大きくなっただけでもきしみが生じるわけですよ。RIZAPの場合は、マーケティングと店舗の数とトレーナーの数が全部バランスが取れて初めて効率的になる。いくら店舗を作っても、トレーナーがいなかったら結局、稼働率が上がらなくてお客さんをさばけないから収益性も上がらない。だから、そういったバランスを取っていこうと思ったら、単に“お客さんをたくさん呼んでくればいい”というわけでもない。
だからRIZAPでは、そういった全体のバランスを取っていくところが「過剰投資にならないようにすること」だと思っています。この全体観を見えるようにするというのが、ITの役割なのです。
そういったことを見極めるセンスがあるのが、共通してご一緒させていただいている創業経営者なんですよね。会社のメカニズムを自分で作ってきているので、思い入れもあるし、ビジネスの中身も構造も分かっているんですよね。だからとても仕事がやりやすい。
中野氏: 創業経営者の直観力の鋭さが、「仕組みや構造を自分で作ってきたところに由来する」――というのは納得ですね。
データについても普通は、「なるべく多く、早く、正確に見せるもの」だと考えがちですよね。私もカルビーのCIO、小室滋春さんからお聞きした、当時CEOだった松本晃さんの「余計な情報をいかに見せないかが重要」「情報自体はシンプルであるべきで、そこから逆算してシステムを考える」という考え方に触れたときには、同じようにびっくりした覚えがあります。たくさん見せりゃいいってもんじゃないと。
岡田氏: 柳井さんほどの器だと、「ちょっとぐらい数字を間違えていたって、早い方がいいんだ」ということなんですね。もちろん1桁違っていたら問題ですし、財務会計の数字は絶対間違ってはいけないですが、管理会計の数字はむしろスピード重視の方がいいんです。
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