CIOの役割は「会社の戦闘能力を上げること」 でも、どうやって? 変化の渦中でRIZAP CIOの岡田氏が描く戦略は:CIOへの道(1/3 ページ)
これから自社の戦略を大幅に変更し、成長路線を目指すRIZAPグループ。ファーストリテイリング出身で、現在、RIZAPグループでITと経営をつなぐ役割を果たすCIO、岡田章二氏に、変化の時代に会社の戦闘能力を上げるための方法や業務現場との付き合い方、CIOとしての持論を聞く。
この対談は
クラウド、モバイル、IoT、AIなどのめざましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。
今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIOを目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。
RIZAPグループ 取締役 事業基盤本部 本部長 岡田章二氏プロフィール
1965年生まれ。ユニバース情報システムを経て、ファーストリテイリングに入社。情報システム部部長、執行役員CIOなどを歴任し、業務改革やIT戦略を担うなど20年以上にわたり活躍。2017年6月、RIZAPグループの取締役 事業基盤本部 本部長に就任。グループ各社のサービスをIT面で支える。
クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 兼 AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤を構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ、代表取締役に就任。システム企画・導入についてのコンサルティングを中心に活動。システムに限らない、企業の本質的な変化を実現することが信条。
これから自社の戦略を大幅に変更し、成長路線を目指すRIZAPグループ。そんなRIZAPの“ビジネスとITをつなげる役割”を担うキーパーソンが、同社取締役で事業基盤本部の本部長を務める岡田章二氏だ。
CIOを目指すクックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長の中野仁氏が、CIOが果たすべき役割と心構えを聞く本対談の後編では、無名時代のファーストリテイリングが一大グローバル企業へと成長する過程をIT面から支えた同氏に、変化の時代に会社の戦闘能力を上げるための方法や業務現場との付き合い方、CIOとしての持論に迫った。
CIOの役割は「会社の戦闘能力を上げること」
中野氏: CIOの役割や存在価値については、どうお考えですか?
岡田氏: CIOの役割を一言でいえば、「会社の戦闘能力を上げること」だと思っています。そのためには、組織やプロセスを整備することの方がはるかに重要であり、ITはそれらをきれいに、そしてスピーディーに回すためのものと位置付けています。統計的に見ても、IT投資と経常利益の間には直接の相関はなく、むしろ組織力の方が利益に与える影響がはるかに大きいことが分かっています。もともと組織力がある企業がさらにIT投資を適切に行うと、利益率がさらに高まるということも、統計で明らかになっています。
中野氏: なるほど。強い組織でシステム投資が適切に行われると、ビジネスのスケーラビリティが上がり、レバレッジが効くということですね。
岡田氏: その通りです。ですから、まずCIOがやるべきことは「システムの導入」ではなく「ビジョンの策定」です。その次にプロセスを作り、ようやくITを作ってそれを回すための組織や制度を整える、という順番ですね。最後に「ビヘイビア(行動)」があって、またビジョンに戻る――という一連のプロセスを回すことで、会社の戦闘能力を上げていくわけです。そのためには、CIOはITだけを理解するのではなく、経営も理解していなければならない。ビジネスに関する包括的な知識とITの知識の両方が必要です。
あと、これは一般的に言われていることとは真逆に聞こえるかもしれませんが、ユーザーの要望にそのまま応えないことですね。以前、DellのCEOを務めるマイケル・デル氏と話した時に、「グローバル展開をスピーディーに行うにはどうすればいいのか?」と尋ねたところ、彼は「ニーズは聞くな。それだけビジネスが遅くなる」と答えました。「各国の担当者は自分たちの都合を言うだけで、聞かなくてもいいことばかり言う」と。
中野氏: 私も、「現場のニーズを拾ってこい」「現場の業務を改善するんだ」という掛け声には違和感を覚えます。現場の要望をもぐらたたきのようにつぶしていく“部分最適”をいくら積み重ねたところで、全体最適には到達できませんし、決してビジネスをスケールさせる仕組みにはなりません。多くの日本企業は、昔ながらの製造業の成功体験を引きずっているのか、「業務改善」というと無条件で肯定してしまうような空気を感じます。しかし、一貫した方針がないまま局地的な改善を進めても、分断と分散にまみれた状態になる可能性が高い。
海外で勝っている企業の仕組みを見聞きして感じたのは、「ああ、彼らはやっぱりそんな小さなところを見ていないんだ」ということでした。どうやって全社を挙げてグローバルで圧倒的に勝っていくのか、スケールアウトしていく仕組みを作るのか――ということを前提にしている。しかも、勝ち残っていくために不可欠な、「Policy」「People」「Process」という“3つのP”のバランスをとりながら、どうやって強い組織を作っていくか、ということにしか興味がない。戦略や設計、仕組みを重視しています。
ですから、1年半で基幹システムを刷新する「五並列プロジェクト」をクックパッドで立ち上げた時には、当事者である人事や財務といったコーポレート部門の人たちに向かってこう宣言しました。
「今回のシステム導入で、皆さんの仕事は楽にはなりません。意味のない作業を減らして、本来やるべき仕事を増やすことを目指します。例えば財務なら管理会計、HR(人事)なら採用や制度といったように、コアな部分に集中して時間を使えるようにする。
それを実現するために私たちシステム部門は、この領域のスペシャリストとしてプロジェクトにベストを尽くします。だから皆さんは、人事、財務のスペシャリストとしてベストを尽くして成長してほしいです。プロジェクトの最大の成果は成長した人とチームです」と。
当初は若干、空回っている感もありましたが(笑)、ベースを成す部分のメッセージはブレないよう、話し続けました。これはプロジェクトが始まる前と始まった後、そして今でもブレていません。システムは人が使うものですから、私たちシステム部門はもちろん、コーポレート部門もスペシャリストとして強くなってもらわないと、いくらITで武装しても勝てない。猫に戦車ですよ。
こうして、勝ち組北米系企業の背中を追ってシステムを統合した結果、今は「システム投資は現場が現場のために行う」という根深い信仰をやめなければならない、と感じています。システム投資はあくまで「経営が経営のために行う」ものであり、主語はあくまで経営です。
岡田氏: コンピュータが人を楽にする時代というのは、そろそろ終わらないといけないのかもしれませんね。もう一つ、「IT部門の人たちが、役割をわきまえないこと」も重要だと考えています。「自分の仕事はここからここまで」「自分の領域外のことには関心を持たない」という姿勢ではなく、“いい意味で役割をわきまえずに動くこと”が大事だと思います。
中野氏: 同感です。悪い意味でユーザーにおもねる姿勢を、私は「システム大衆主義」とか「システムポピュリズム」と呼んでいます。ユーザーからは、「あれをやってほしい」「これをやるべき」という声が上下左右、四方八方から毎日のように飛んでくる。でも、それに引きずられて行き着く先が「部分最適」であり、グチャグチャなシステムのオペレーションに忙殺されて保守化したシステム部門の姿につながっているように思うのです。目の前で困っていると助けたくなりますが、安易に流されないようにしないといけない。
ですから私のチームでは、「本質的なゴールにたどり着くために、あえて空気を読まない」「境界を越えていくことがわれわれの仕事だ」という考えを共有しようとしています。石を投げられても断固としてやる。しかも、私自身は意図的に“的”として分かりやすい風貌と発言をしている親切設計です(笑)。
情報システム部門の人たちと話すと、「どんな製品を導入するか」「どんなシステム構成にするか」という具体的な施策、Howの話が話題に上がりがちですが、本来はまず、「会社としてどうありたいのか」という基本的な考え方や方針をきちんと共有することの方が大事だと思います。
システム部門のチームも、この考え方を共有できるメンバーで構成することが大切だと思います。うちのチームは、採用する前から考え方の原則を共有していて、ミスマッチが起こらないようにしています。PolicyはPeopleの振る舞いによって初めて現実になるわけですから。
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