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ASEANキャッシュレス決済がもたらす機会と脅威飛躍(1/5 ページ)

ASEANのデジタライゼーションは先進国が歩んできた段階的なものではなく、リープフロッグとして一足飛びの変化を見せている。

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Roland Berger

 ASEANでキャッシュレス決済が日常のものとなりつつある。高所得者層による高級ショッピングモールでの支払いの話だけではない。ストリートに位置する露天商でも、これまでボロボロの紙幣で支払いをしていた人々がスマホをQRコードにかざして決済を行っている。ASEANのデジタライゼーションは先進国が歩んできた段階的なものではなく、リープフロッグとして一足飛びの変化を見せている。それは決済という場において如実に表れていると言っても過言ではない。

 キャッシュレス決済の浸透は単に「決済」という狭い文脈の中だけに閉じた話ではない。キャッシュレス決済によって人々の膨大な購買行動がデータ化され、それがあらゆるビジネスに還元される。そこからもたらされるものを享受できる企業とそうでない企業に大きな競争優位差が生まれることにもつながり得る。そこには、自国を中進国のわなから抜け出させたい現地財閥もいれば、一帯一路の中でデジタル経済圏をASEANに拡げたい中国テックジャイアントもいる。

 そのあたりも踏まえ、本稿ではASEANキャッシュレス決済とともに、それがもたらす日系企業への影響についてを考察したい。

1、ASEANのキャッシュレス決済

 始めにASEANのキャッシュレス決済の現状を定量的に見ておきたい。図表1はASEAN各国の決済手段の内訳を示したものである。シンガポールは既にカード決済が普及している中、後追いで電子決済が進んでいる(本稿での「キャッシュレス決済」は狭義としてこの電子決済を意味する)。一方、その他のASEAN諸国はカード決済の普及がまだ充分ではない中、先に電子決済が進んでいるという印象だ。インドネシアがその典型でカード決済が占めるはずであった割合を電子決済が既に担っている。これら数値の特徴も踏まえASEANのキャッシュレス決済の特徴を見ていこう。


図表1:ASEAN各国と日本の決済手段内訳(2018年)

1、1 ASEANキャッシュレス決済の特徴

 冒頭でASEANキャッシュレス決済の状況についてをリープフロッグと述べた。先進国が経てきた歩みとは異なるステップでキャッシュレス決済が浸透し始めている。その結果、日本とは異なる特徴をASEANキャッシュレス決済は持つ。現地の日系企業がASEANキャッシュレス決済の波にうまく乗るためには大前提としてその特徴を的確にとらえなければならない。語るべき特徴は3つあると考えている。「必須ではない金融アクセシビリティ」「モバイルファースト」、そして「簡易キャッシュレス決済方式(静的QRコード)の普及」だ。

  • 1、1、1 必須ではない金融アクセシビリティ

 1つ目は、ASEANで今拡がっているキャッシュレス決済は、必ずしもクレジットカードや銀行口座を持たなくても利用できることにある。図表2はASEAN諸国の15歳以上人口に占めるクレジットカード、及び銀行口座の保有率である。クレジットカードでいうとシンガポールで35%、マレーシアで20%、そしてその他の国々は一桁台%とまだまだ低い状況だ。銀行口座はクレジットカードに比べるとタイでも普及が進んでいるが、インドネシアやベトナム、フィリピンではまだ限定的である。


図表2:ASEAN各国のクレジットカード、及び銀行口座保有率

 では、クレジットカードや銀行口座の保有率が低いASEANではどのようにしてキャッシュレス決済を実現しているか。簡単に言えば、現金であらかじめ支払ってトップアップ(チャージ)できる仕組みを取って解消している。例えば、タイのRabbit LINE Payでは駅でのトップアップができることに加え、ショッピングモールなどに設置されているAIS(タイの大手携帯キャリア)の専用機を介してのトップアップも可能だ。さらにタイの銀行口座保有率が一定程度ある状況に鑑みて、銀行口座から直接Rabbit LINE Payにトップアップすることも可能としている。また、インドネシアのGo-Payもコンビニなどでトップアップができることはもちろん、バイクタクシーの運転手を介してのトップアップも可能にしている。

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